「女性に魅力を感じる自分」を知った

上京から1年経つか経たないかの頃だったと思う。
私は自分のセクシャリティについて大いに悩んでいた。
それまで男性としかお付き合いしたことはなかったが、女性に魅力を感じる自分がいることは、もはや否定しようのない事実だった。そしてそれは、金も自由も情報もない田舎の生活の中では、見つめようのないことだった。周りは彼氏がいるのが当たり前。高校を出たら進学するか就職し、ある程度働いたらその時付き合ってる彼氏と結婚。家庭に入り、子供ができて、家を持って、しあわせに暮らしましたとさ。という、2016年現在ではもはや高望みなのでは?と思えるような生活。進学も就職もしなかった私はかなり異端だったし、そのことで田舎にいたころの私は肩身の狭い思いもしていた。

それに加えて、私は女性への恋心を周囲へひた隠しにしていた。
というより、これは恋ではないと思おうとした。いき過ぎた友情なんだと思うように努めた。そうすることで、自分の苦しい気持ちをなかったことにしようとした。

学生時代も好きな女の子がいた。会うたびにとても嬉しい気持ちになり、出来るだけそばにいたいと思った。正直、触れたいと思った。ただそれより先はどうしていいかわからなかった。とにかくその子の1番でいたかったし、なんでも話し合える親友であることが幸せだった。
ある日その子に彼氏ができた。沼の底に突き落とされたかのように苦しくなった。
周囲の友人は、彼氏ができたんだね、おめでとう!と無邪気に笑っていた。私は笑えなかった。おめでとうと言えなかった。明日は、彼氏と一緒に帰るね、と言われ、言葉も出てこなかった。
放課後、オレンジ色の美しい夕暮れの中、その子が彼氏と手をつないで帰っていくのを見て、泣きそうなくらい嫉妬した。彼氏も学年で2番目くらいにかっこいい人で、お似合いだと思い、めちゃめちゃ悔しかった。手を絡めて笑顔で歩いていく彼女の姿を涙目で見送った。

初めてキスしたの!と報告された時は、顔から血の気が引き、なんと答えたかすら覚えていない。

彼女と手をつなぎ下校して、初めてのキスをするのは女の私ではない。サッカー部のイケメンなのだ。私ではダメなのだ。

世界は終わりだ……と思った。

現実にはその程度では世界が終わることもなく、私は徐々に彼女から遠ざかり、やがて彼氏ができた。
割とモテてるのに気取らない人で、いやらしい感じもしない。話も面白かった。ノリが良くて、一晩中話し込んだりした。二人っきりになっても紳士的で、いきなり手を出してきたりもしなかったし、ちょっとずつ好きになっていった。
性的好奇心の旺盛なティーンエイジャーであったので、普通にキスもしたしセックスもした。一緒にいて楽しかったし、ごくごく普通に交際し、ある日別れた。そのあとも何人か男の人と付き合った。普通に出会ってお付き合いして、2~3年続いたりもした。
学生時代の失恋は薄ぼんやり思い返す程度になっていた。
ただ、「女性に魅力を感じる自分」がいることは、ずっと心の片隅にくすぶっていた。

都会に暮らすようになり、様々な情報が日々入ってきて、私はその自分をもはや放っておけないと思った。ある時、ガールズバーのお客さんに昔話をした時に、ついその学生時代の失恋の話をしてしまった。
「そうなんだ、じゃあ君はレズっ気あるんじゃないの?一回やってみたらいいじゃん。二丁目行けば?ゲイバーだけじゃなく、レズビアンが集まるお店もあるらしいよ」とその人は言った。
どうやら東京には「新宿二丁目」という場所がある、ということを、ついに知ってしまった。そして、そこには「レズビアン」がいる、ということも。

新宿二丁目はゲイタウンとして知られ、一般的なイメージとしては男性同士のカップルが手をつないで歩いてるとか、ゲイバーがあるとか、ミッツマングローブみたいな人がいるんでしょ?と思われがちだ。確かにそれはその通りなんだけど、みんなのイメージする二丁目からすっぽり抜けている存在がある。
ゲイだけでなくレズビアンもいるのである。つまりレズビアンバーやパーティもあるということだ。
2016年現在、新宿二丁目には約30軒のレズビアンバーがある。毎週末、女の子しか入れないパーティをやっており、別にレズビアンやバイセクシュアルじゃなくても、女性同士の交際や関係に興味があるだけでもOKだよ。ただし入れるのは戸籍上女性である人に限るよ(戸籍を変えていないニューハーフや女装子、戸籍を変えたFTMはダメ)という趣旨だということを、当時の私はネットで検索して知った。そうか!その手があったか!と思った。

女性の、女性による、女性同士のためのパーティ。
ウェブサイト上をくまなく閲覧し、それがどのようなパーティであるかをみっちりと頭に叩き込んだ。
DJがいて踊れるような曲が一晩中かかっていること。可愛くてセクシーな装いのダンサーさんたちが常に会場内にいること。チップを買ってダンサーさんに挟んだりする遊びができること。入り口で名札が配られそれに名前や恋人募集などのメッセージを書けること。そして、ポールダンスのショータイムがあるということ。
ショータイム。しかしこの時は、ショータイムよりも、その場に行くことの方がずっと大きく頭を占めていた。いったいどんな人たちがいるのだろう?友達できるかな?そもそも、誰かと話したりできるような雰囲気なのかな。お酒いっぱい飲めばノリで話せるかもしれない。まず入ったらテキーラを煽ろう。
かくして私は初めての新宿二丁目へ、期待と不安を胸に足を踏み入れた。

レズビアンパーティに行く

事前にグーグルマップで場所を調べてあったため、さほど迷うことなくたどり着いたそのクラブの入り口は、かなり小さかった。狭い階段を下りていくと受付があり、そこでエントランス料金を払った。
正方形の名札を渡され、そこに名前と「友達募集」か「恋人募集」もしくは両方なのかを記す。
それから、自身の「セクシャリティ」を書く。これは、ベッドの上での立ち振る舞いのことを示す。つまりセックスする上で相手をリードし責めたい人は「タチ」で、その逆、受け身になって楽しむのが好きな人は「ネコ」。
両方できます、両方したいですという人は「リバ」だった。
そんなの分かんねえー!相手とその日の気分によらない?
っていうかなんで初対面の相手にどんなセックスするか名札に書いてまで明かさなきゃいけないの?謎すぎる!
とりあえず名前と友達募集だけ書いて、名札をつけて、重い扉を開けた。

中はすでにイモ洗い状態で最初は何が何だか全くわからなかった。
女・女・女。
女しかいない。
いや、よく見たらバーカウンターに入ってるスタッフはゲイの男性だったりするのだけれど、女しか見えない。
そのうち少しずつ目が慣れてくると、その中には男の子っぽい女の子もいれば、ギャルみたいな子、ヴィジュアル系みたいな服装の子、普通の女子大生みたいな子とかなり多種多様に富んでいることがわかった。
この子たちがみんなレズビアンかバイセクシャルなの?マジで?
世の中こんなに「女が好きな女」って属性の人が存在してたの?
とにかくその場の空気に圧倒されてしまった。

これはシラフではいられない。
とりあえず誰かに話しかけるために、お酒を飲むしかない。
千円札をカウンターに置き「テキーラ2杯!」と叫び、立て続けに飲んだ。そしてしばし踊る。まだ足りない気がしたのでもう2杯追加した。
たまたま隣に立っていた綺麗なお姉さんが「一緒に飲も~!」と話しかけてくれたので、お姉さんに一杯おごり、追加のショットを飲み干した。いい感じになってきた。女だらけの衝撃に口もきけなかったけど、お酒が回り、少しずつ知らない人に話しかけていった。

「初めて来たんです」というとみんな親切にいろんなことを教えてくれた。
また、「初めて来た」ということは、言う相手を選んだほうがいいよとも言われた。
なんでですか?と聞くと、
「初めて来た子を狙って持ち帰りたい輩がいるからねー」
とのことだった。
要は、ウブでまだ女を知らない女の子をベロベロに酔っぱらわせて、持ち帰り、美味しくいただきたい層が少なからずいるとのことだった。
なんだそれは。すごい世界だ。えらいことだ。
しかし、その相手が綺麗な人だったらまんざらでもないかもしれない……と想像してニヤニヤしていた時である。
「あ、今からショータイムだよ!前の方で見よう!」と、腕を掴まれてステージの方へ連れて行かれた。
そういえばショータイムがどうとか、ウェブサイトにも書いてあったなあ。
この時すでに、テキーラ7杯目。ショータイム、イエーイ!よくわかんないけどみんなで見よ!とヘロヘロの頭でステージの前を陣取った。

初めて見るポールダンスの衝撃

ステージの裾からダンサーさんが登場し、曲が流れ始める。周りはワイワイガヤガヤとしたままだ。後ろの方から人が詰め掛けてきてかなり苦しい。
彼女はゆっくりと踊り始める。
ポールを掴みターンをし、片足を足を高く持ち上げた。
フロアのざわめきが歓声に変わっていく。ライトが色とりどりに輝いていた。
私のそれまでの人生からは想像もつかないことがステージ上で繰り広げられていた。
それは美しく、力強く、訳がわからなかった。
どうやったらその形になるの?今逆さになってるけどそれはどういうことなの?ものすごく回転してるけど目が回らないの?体がすごく柔らかいけど新体操とかやってたの?
彼女から目が離せなかった。口も開きっぱなしだった。酔いが少しずつ冷めていくのを感じていた。彼女は空中で美しく静止し、するするとポールから降りてきて、ブラを脱ぎ捨てると暗転したステージから颯爽と去っていった。
再び喧騒に包まれ始めたフロアで、ステージの裾から楽屋へ帰っていく彼女の姿を目で追っていた。夢を見ているようだった。夢の中で、現実にはありえないことが起こっているみたいだった。それは魔法だった。一度踊り始めたら目が離せなくなり、心の中をぎゅっと手で掴まれるような感じがした。

素晴らしいショーの感動でしばらくぼんやりしていたが、また誰かと話したり、お酒を飲んだりして、少しずつ心を静めた。
「さっきのショータイム、本当に凄かったね」と周りの子たちと話したりした。そのあとも何杯かお酒を飲んだけど、全然酔いが回ってこなかった。
夜がふけるにつれどんどん人が増えてきて、空気が薄くなってきたので、ちょっと外に行って涼もうとその場で知り合った子たちを誘った。地上に出て新鮮な空気を吸うと、クラブの中との気温差で身震いした。向かいのコンビニにも、同じようにどこかのクラブからエスケープしてきたと思しき人たちがたむろしていた。

コンビニに行って水を買い、一息ついておしゃべりをしていると、派手な髪色の女性同士が話しているのが見えた。そして、その中の一人は先ほどのダンサーさんだと気づいた。

「話したい!」と思った。話してみたい。何を言えばいいかわからないけど、とにかく素晴らしかった、感動したということを伝えたかった。こんなの初めて見た、もう頭が回らなくなるぐらい、美しかった。言葉じゃ言い表せる自信がなかった。
ほろ酔いの勢いも手伝って、ダンサーさんに話しかけることができた。
彼女はとても気さくにおしゃべりをしてくれた。
話してみると、ショーの最中の凛々しさは打って変わってほんわかした雰囲気だった。印象が違いすぎて、驚いた。
近くで見てみると、肩や腕、背中の筋肉がキレイについていて、姿勢が良く、踊っている時とはまた違った魅力があった。こんなにカッコ良く、美しい女性がこの世の中にはいたのか、と思った。

私は、胸の内に燃えたぎる感動を拙いながらも言葉にして彼女に伝えた。
感動したなんて言葉では収まらなかったが、とにかく、本当に、今日来てよかった。また見たい。私には出来そうもないけど、やれるものならやってみたい。
そんなようなことを言うと、彼女は
「この人がポールダンススタジオをやってるから、習いに行ってみたらいいよ」
と、隣にいた派手な髪色の女性、アキさんを紹介してくれた。
アキさんは都内でポールダンスを教えており、自身もいろいろな所で踊っているという。パーティの主催もしていると言った。
「いつでも習いに来てね。見学するだけでも大丈夫だよ」と、アキさんはチラシをくれた。
初心者OK!と大きく書かれたチラシを、私は大事にカバンにしまった。
それから1週間後、私はアキさんに連絡し、初心者向けポールダンスレッスンの予約をした。

第3話につづく)