ニューヨークに星の数ほどあるコワーキングスペースを直撃取材する本連載。記念すべき第10回は昨年オープンしたばかりの最先端テクノロジー系コワーキングスペース、その名も「New Lab(直訳すると、新しい実験室?)」に行って来ました。

元造船所をリノベーションして作られた巨大コワーキングスペース

New Labはブルックリンの広々としたBrooklyn Navy Yard(海軍工廠産業地域、艦船などを製造する海軍直営の軍需工場)に昨年完成したコワーキングスペース。元々海軍用地だったこのエリアは、現在、工場やオフィスとして活用されているようです。

周辺には、ニューヨークのマンハッタン中心部とは違って大きな小学校や中学校があり、登下校中の子供たちともすれ違う、なんとものんびりとした住宅地。地下鉄の最寄り駅から15分ほど歩いて着いたのがこちらです。

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ででん、と構えるなんとも重厚な建物群

警備員のおじさんが見守っているところを、にっこりスマイルして「New Lab」と言って通り抜けましょう。入ってすぐの白くて大きな建物がNew Labです。

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扉から建物まで何もかもスケールがデカい

入ってすぐの受付写真は……すみません。なぜか緊張していて撮影できませんでした。

その時の様子を少しだけご説明します。建物内は大きな窓が印象的な明るい空間が広がり、屋内に配置された観葉植物は豪華そのもの。

思わず植物に見惚れていると、受付の洗練されたお姉さんに「炭酸入りのお水か、炭酸なしのお水、どちらがいい?」と聞かれました。炭酸入りか炭酸なしかを聞かれたのは初めて(笑)。試しに「炭酸入りのお水を下さい」と言うと、レバーを押してずごごごごっと炭酸水を出してくれたお姉さん。とても近未来的でした。

そして受付横のスペースには、広々とした駐輪場。車か自転車でないと、来るのも不便そうですし、駐輪場は必要ですね。

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駐輪場の横にも観葉植物

広報のお姉さんに話を聞くと、New Labは2016年6月にプレオープン、同年9月に正式オープンしたばかりの施設で、元々ここは造船所だったとか。100年以上前に建てられた造船所は2011年に閉鎖、廃墟だったところを、2015年からリノベーションしはじめたとのこと。

元造船所なだけあって、とっっっっても広い。並大抵の広さではない。

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二階から見た吹き抜け

造船所の名残もあり、こういった梁が、ものづくり系のひとにとってはおそらく萌えポイントかと思います。

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いつでも空きあり、だけど入居倍率7.3倍のワケ

New Labの大きさは7800平方メートルで、ニューヨークの平均的なコワーキングスペースに比べると圧倒的な大きさ。端から端まで歩くには10分くらいはかかります。入居している会社は2016年11月時点で41社、入居メンバーは270名です。

定員は60社500名ですが、まだまだ空きがあるのはなぜでしょうか。これは、可能性のある最先端テクノロジーベンチャーをいつでも受け入れられるよう、常に空きのある状態にしているのが理由。公言するのは簡単ですが、経営面を考えると、賃料の収支的に苦しい決断だったはず。

プレオープン時の2016年6月には、共同創業者をはじめ、ニューヨークのものづくり×テクノロジーベンチャー界隈に明るいスタッフ達がスカウトした10社がお試しで入居、正式オープン時には300社の応募がありました。

しかし、正式オープン時には厳正な審査により41社に絞り込まれたそうです。応募条件は、技術の進んだ製造系ベンチャーであること、1年以上の入居、のみ。しかし応募後の審査によって、ニューヨークでのものづくりの可能性を拡げうるか否かを判断されるそうです。

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閉鎖された状態の造船所。Brooklyn Navy Yard Is Home to Manufacturing Cooperative – The New York Timesより引用。
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改装後、アフター写真。広い構内でいろんなオフィスやミーティングスペースがある

総計300万ドルの最先端機器の貸し出しをはじめ豪華なサポートがズラリ

そもそもNew Labは、共同創業者のDavid Beltが企画した施設。「ニューヨークってハードウェアのテクノロジー分野に弱いよね」という危機感から生まれました。

賃料は非公開。しかしファシリティはたいへん充実しています。出資やコンサル、法律関係や製造技術のための機器の貸し出しなど、数々のサポートをするNew Labパートナーの面々を見れば、ここに製造スタートアップとして成長するためのすべてが詰まっているのは容易に想像がつきます。

以下、貸し出されている機器を写真とともにご紹介。

こちらは製品のプロトタイプを作るためのレーザーカッターです。

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利用者がいるので、中を詳細に写せませんでしたが、こちらはレーザーカッターの部屋

3Dプリンターだって大小様々なラインナップ。

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とても大きい3Dプリンター。椅子みたいなものが作られていました
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こちらは小規模な3Dプリンターがいろいろ置いてある部屋
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設備の部屋は大学の研究室を思い出させますね

他には溶接機やナノレベルの作業ができる機器もあり、最先端のハードウェア製造ベンチャーが欲する機器をひと通り利用できるようになっています。

ITソフトウェア企業の場合は、机とパソコンと安全で高速なインターネット回線さえあれば大抵大丈夫ですが、新しいハードウェアを作ろうとしているベンチャー企業には必要な設備が無数にありますから、本当にありがたいですね。

ちなみにこれらは、テクノロジーパートナーの協力があってリーシングできたもの。テクノロジーパートナーからは、総計300万ドルに相当する設備をレンタルしているそうです。

他にも、州の産業発展を支える政府機関、ゴールドマンサックスなどの金融機関、テクノロジーに強い法律事務所Cooley、環境を整える専門的な建築事務所ARUP……。サポート陣が豪華すぎます。(詳しくはこちら。)

展示スペースにはNew Labから生まれた火星探知機、携帯用太陽電池

建物内には、選ばれし入居企業の製品が展示されているスペースもあります。

こちらは、入居中企業でHoneybee Roboticsという様々な用途のロボットを構築する会社の火星探査機。他にも下水道管の検査機や医療用機器など幅広く開発しているらしいです。

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ちゃんとアメリカの国旗がついている

携帯できる太陽電池製品を開発しているVolatic Systemsのスマホ充電用の太陽電池もこちらに展示してあります。ホームページを見ると、太陽電池がついているリュックなど作っています。

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もうちょっと小さかったら携帯しやすいかなぁ

他にも産業用自動顕微鏡を開発しているNanotronicsや、倉庫従業員の腕などに装着して力作業をサポートするStrongArm Technologiesなども入居しています。

なんだか、すぐそこにドラえもんのポケットにある未来がきているようで、わくわくしませんか?

南国なくつろぎエリア、お洒落カフェ、大規模イベントスペース

設備も人的サポートも一流。集まっている人や事業も精鋭揃い。コミュニティ形成にも積極的。おまけにできたばかりなので施設も今っぽさを感じるつくり。

開放感のある空間には、大きくて元気な観葉植物とくつろげそうなソファや椅子。ちょっと南国に遊びに来たかのよう、と言ったら言い過ぎでしょうか。

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観葉植物にまぎれてくつろげそう

もちろんキッチンやカフェも併設。建物周辺にあまり飲食店がないので、カフェがあるのはありがたいですね。
ここで栄養補給ついでに、ハードウェアスタートアップ同士の会話が生まれたりして。

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吹き抜けの目立つところにあるカフェ
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ニューヨークの街中にあるカフェと変わらないお洒落さ

そしてコワーキングスペースにあると嬉しいのは、入居者同士をつなげたり外部関係者を呼べたりできるイベントスペース。

もちろんこちらにも大きなイベントスペースがあります。華々しく新製品発表会や、カンファレンスをするときに使うのでしょうか。New Labは、先程触れたサポーターの他に、ベンチャーキャピタルとのつながりもあるそうなのでこのスペースは大活躍しそう。

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100人は余裕で入る広さ

日本も、製造業元気ないよねーって言われるけども、製造業って先行投資がないとなかなかプロトタイプを作るのも、生産してみるのも難しい。

New Labは最先端のものづくりを育てるためにはどうすべきかを、あらゆるステークホルダーを巻き込んで実現した、ニューヨークの本気を感じられる場所でした。10年後、20年後が楽しみです。

もしかしたら、ドラえもんのポケットの中身を実現するのは、日本ではなくて、ニューヨークかもしれませんね。

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看板も味がある

シリーズ「ニューヨークの素敵なコワーキングスペース」

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