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ポールダンスが好きだ

ポールダンスが好きだ。
毎日踊りたいし、練習したい。暇さえあればポールの振り付けを考えている。

気が付けばよく会う友達の半数以上がポールダンサー。同じ釜の飯を食った仲間の絆は非常に強い。みんなが話す、ポールダンスをしている上で楽しいこと、苦しいこと、何を聞いてもまるで自分のことのように思える。

そんな悲喜こもごもを共感しあえるポールダンサーの仲間をお呼びして、座談会をした。ポールダンサー同士の「わかりみ」しかない会話と、ポールダンサーではない編集スタッフとの温度差も合わせてお楽しみいただければ幸いである。

勝手にセクシーを想像されるとしんどい

まなつ

本日はお仕事後に集まっていただきありがとうございます。

じゃあまず…綺麗事を聞くのもアレなので、ポールダンスをやってて辛い事から話してもらいましょうか。

まなつ
ショークラブやイベントでマイペースに踊る兼業ポールダンサー。昼間は文章を書いたり肉を食べに行っている。趣味は旅行。『おっぱいが大きかったので会社員を辞めてポールダンサーになった話』を出版。(顔出ししていないため、アイコン・表紙画像モデルはバーレスク東京のLunaさん)

S氏

基本的にはほぼないんですが、強いて言えば、初対面の人にポールダンスをやってますって言うと、ポールダンス=セクシーとかストリップだけだと思ってる人がほとんどなんですよ。え…?ってニヤニヤされて、違うものを想像される。

なので最初から「僕はサーカスっぽい、スポーツっぽいのをやってます」って前置きしなきゃいけないのがちょっと面倒くさいかなーって。

Mrs2
※写真はイメージです

S氏
パワフルなトリックで老若男女を虜にしている専業ポールダンサー。インストラクターとして後進の育成にも貢献している。

まなつ

男性のSさんを見ても、言わないとわかんない人がいるんだ。

人は自分の見たいものしか見てないですねえ。

S氏

そうなんです、言っておかないと勘違いされるので。
ストリップ自体は素晴らしい文化だと思うのですが、「今あなたが想像したものはやってないです」と。

基本的には楽しくてしょうがないので、他に嫌なことは思い浮かばないです。

大会遠征費はすべて自腹

まなつ

他の人はどう?

マイ

辛いなあって思うのはやっぱり…金欠状態になること。

まなつ

金欠状態(笑)もう、リアルだな〜!!

ちなみにその金欠はどういうことで起きるんですか?

マイ

やっぱり練習用のスタジオ代とか…あと大会で海外に行くのも全部自腹じゃないですか。そういうのがしんどいですね。遠征費でかいです。

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マイ
体操経験があり大会にも出場する専業ポールダンサー。動物が大好き。好きなポールダンサーの名前をタトゥーにしている。

まなつ

マイちゃんは大会に入賞してて、シード権あるから大会に出場する機会も多いもんね。

マイ

そうなんです、海外の方が大会が多いから出場するための飛行機代がすごくて…あとは衣装とかその都度揃えるので。ヘアメイクやったりとか、染めたりカットしたりで。かかってくるんで、これ(お金のポーズ)

一同

これな(お金のポーズ)

マイ

そのためにお店とかインストラクター業で、必死に稼がないと…って感じですね。

もえ

女性の場合だと、ショーパブとかで働けるじゃないですか。男性って厳しくないですか?

IMG 1014

もえ
社会人をしながらショークラブで働く兼業ポールダンサー。かわいい見た目と裏腹に力技もキメられる。学生時代は帰宅部。

まなつ

確かに…。Sさんはその辺どうしてます?

S氏

そうですね、僕にはその選択肢がなかったので、食っていける道を模索しながら仕事をしていくしかなかったです。

僕の場合は運よく仕事になりましたけど、自分から就職活動ができないんですよね。声をかけていただけたからよかったけど、そもそも勤めるお店が見つからないので…。

女子一同

確かにー!

まなつ

女子は結構選択肢があるもんねー。男子は切実!

S氏

でも、本当に人と運に恵まれて、スーっと行けたので僕は本当に恵まれてると思ってます。それで苦労している人もいる中で、2年でスパッと会社を辞められたので。

まなつ

会社員を辞めてポールダンサーになった話じゃん!!

S氏

会社員の時にポールを始めて、最初はまさか仕事にできると思わなくて、楽しくてやってたんですけど、ああ会社辞めて仕事にできたらなあって思ってて。2年でちょうど、仕事にできるなって確信して辞めちゃいました。

絶対に追いつけない領域に打ちのめされる

ななんせ

辛いことは…もっと上手になりたいと思って日々練習してる中で、もともとダンスをやってた人には敵わないなって思っちゃうこと。

小さい時からダンスをやってる人にはどれだけ頑張っても追いつけないから、いつまでモチベーションを保てるかなーって…

IMG 1047

ななんせ
9年の会社員生活から専業ポールダンサーの道へ。チアリーディングで培った笑顔が魅力。木登りが得意。

まなつ

確かに、バレエ20年やってます、とか体操3歳からやってますって人には敵うはずないわって感じするよね…。

もえ

私もななんせちゃんと一緒ですね…ダンス経験は追いつけないと思っちゃう。

ななんせ

楽しい〜!頑張ろうー!って思える時と、いや、追いつけないな…って思う時と。敵わないなりに頑張ろうって思う日と、無理かもって思う日があります。

まなつ

くじけそうになるよね。

使い古されたギャグで精神的ダメージ

もえ

俺のポールで踊ってって言われるのが、辛くはないけどめんどくさいですね。

Fotolia 240309585 Subscription Monthly XXL
「俺のポールで踊って!」(※写真はイメージです)

まなつ

女子ポールダンサー100人に聞いたら、100人全員言われたことあるであろう、定番のやつ(笑)

マイ

ありますねえ。

まなつ

みんな、なんて返してる?もう、言われすぎてだいぶうんざりしてるんだけど(笑)

もえ

そんなんじゃ折れちゃうよとか。

まなつ

私、短すぎてお話にならないって言ってる、3mは欲しいのって。でもそう言われてなぜか喜ぶ人もいるんだよね…M男?(笑)

この記事が公開されたら、いろんな人が読んでくれて、この定番ギャグにポールダンサーはだいぶうんざりしてますよってことが広まって欲しい(笑)

意外と多い「体育嫌い」

まなつ

そういえばみんな運動経験ある人?部活とかさ。体操やってた人もいるかな?

もえ

私、ずっと帰宅部で運動もやってなかったです。だから筋肉も柔軟性もなくて…。頑張っても、運動経験者にはなかなか追いつけないって感じます。

まなつ

身体能力ってね、小さい時からやってる人は強いもんね。

もえ

ポールダンサーって、何か運動をやってた人多いですよね。体操とかバレエとか。

ななんせ

多分その人たちも、体操とかバレエをやってる時にすごく努力して大変だったんだとは思うんですけど…それでも、柔軟性がすごかったりアクロバットができる人を見ると、羨ましいと思う。

もえ

私、体育の授業サボってました。

まなつ

私も。運動なんてしたくない、ストレッチって何?って。体育サボった補習で学校の周り走らされてたよ。運動サボったのに結局これかって思った。

マイ

私は運動大好きでしたね。体操やってました。

S氏

僕は体育嫌いでした、特に球技。

まなつ

体育嫌い組が多いねえ(笑)

ななんせ

私は玉系以外は好きでしたよ。

まなつ

玉系(笑)

S氏

運動神経良くないと球技ってできないですよね、僕もできなかったんでわかります。

まなつ

私も玉系とか、集団競技が嫌い。パスとかしないで!みたいな、そっちだけでやっといてって思ってた。

マイ

めっちゃバレーボール好きでしたけどねえ。玉系。

まなつ

マイちゃん超うまそう。マイちゃんのチームにいたい。同じチームならいいけど敵にしたくない(笑)

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マイちゃん、バレーボール得意そう

ポールダンス大会にほしい「身体能力別部門」

まなつ

身体能力の差ってすごいよね。運動経験ももちろんだけど、国でもあるじゃない?

海外のポールダンサーの友達がインスタのストーリーに書いてたんだけど『今、ポールダンスの大会は、男性部門・女性部門・シニア部門って部門があるけど、もう一個新しい部門を作ったほうがいい。ロシア人部門』って(笑)

一同

爆笑

マイ

本当にそれ思う!!

ななんせ

同じ大会にいたら敵わないですねー!

まなつ

ロシア・ウクライナとかあの辺の人の身体能力がハンパなさ過ぎて…分けた方がいいんじゃないかってくらいレベルが違う。

たまに大会の上位入賞者をウェブで見てるとさ、タチアナ〜とか〜コフとか、ほとんどロシア・ウクライナらへんの人のことない?

S氏

すごいですよね。それでいうと、サーカスの人部門も作れそう。

マイ

わかる〜!

S氏

サーカス仕込みだけあって、とてもレベルが高い…

まなつ

サーカスで1年以上働いたことのある人部門欲しいね。

S氏

ロシアだけじゃなく、中国人選手もきてますよね。

まなつ

やっぱり、オリンピック種目になる流れもあるしね。

S氏

そうなってくると雑技団出身、バレエ出身、体操出身とかいっぱいいそうだから…中国とロシアすごくなるかなって。

Fotolia 206803809 Subscription Monthly M
ロシア・ウクライナ勢が大会上位を占めることもしばしば。選手層も厚い

新ジャンル「格闘技ポールダンス」

まなつ

じゃあ辛いことは一通り聞けたということで…楽しいことを聞こうかな。楽しいことはいっぱいあるもんね。楽しくなきゃ続けないよね。

一同

うんうん(頷く)

もえ

楽しいことしかないです!唯一ハマった趣味です。小さい時から習い事いっぱいやらされたけど、自分がやりたいって思ってやってたこと一個もなくて。だからどれも続かなくて…。でもこれだけは続きました。ポールは初めて自分でちゃんとやりたいと思った。

まなつ

じゃあ、みんなよく聞かれるであろう「なんでポールダンス始めようと思ったの?」を全員答えてもらおうかな。Sさんはどうですか?

S氏

僕、運動神経悪いので球技とかはやらなかったんですけど、武道とか格闘技をやってたんですよ。一人でもできて、チーム競技じゃないから負けても自分だけの問題だし。

それで、格闘技を続けていく中で、自分と関係ないどんなジャンルのスポーツでも、一流の人の動きってすげーかっこいいし勉強になるってことに気づいてYouTubeでいろんなダンスやスポーツの動画を見てたんです。

で、たまたまポールの動画を見かけて。なにこれすごい面白そう!って。一回やってみようと思って、やってみたら本当にすごく面白かったから、ハマっちゃって。今に至ります。

まなつ

ちなみに格闘技はなにやってたんですか?

S氏

結構いろいろやってて、剣道、合気道、空手、ブラジリアン柔術は年単位。一番長くやってるのはブラジリアン柔術ですね。

まなつ

一通りやってる感じ!Sさんいたら夜道安心だねえ。

S氏

打撃でも組み技でも棒持っても、一通りの対処ができますね、あとはポールで戦うとか。

まなつ

ポールで戦う(笑)どうやって戦います?

S氏

ポール格闘技、回転しながらキックとか。

まなつ

いいですねえ、我々には新しい風が必要ですよ、格闘ポール。

S氏

スワン(回転技)でヒールを履いてキックするとか。

まなつ

痛い!ヒールが刺さる!でもそういうキャラがそろそろ映画とかに出てきてもおかしくないですね、ポールダンスで戦う女スパイみたいな。

S氏

この間ミッション・インポッシブルでトム・クルーズがやってましたよ、手錠を棒につけられてるんだけど、ポールの技で上に上がっていって脱出するっていう!

ミッション・インポッシブル5にてポール技術を披露するイーサン・ハントことトム・クルーズ

すぐ死ぬからやりたいことをやる

まなつ

マイちゃんはどんなきっかけ?

マイ

体操やっていたのですけど、横の棒やって…縦どうなのかなあっていう。好奇心ですね

ななんせ

私は、3年くらい前に、会社員やってたんですけど…。

まなつ

出た!会社員!

ななんせ

そう、普通の会社員で。クラブで週末遊んでます〜って感じだったんだけど、太ったから運動したくて…ピラティス、ヨガ、ボルタリング、ベリーダンス、でポールもやって。いろんなフィットネスを試して、ポールが一番面白かったから。

昔から木登りとか崖昇るのが好きだったんですよ。酔っ払って柵とか登って、友達にやめなよ〜とか言われてたんですけど。ポールは堂々と登っても怒られないからいいですね(笑)で、私も会社辞めました。

まなつ

みんな会社を辞めるね(笑)

もえ

私も…辞めてないんですけど、正社員だったのをアルバイトにしてもらいました。

まなつ

それはどうして?

もえ

とってもゆるい会社で、出社時間も自由だし、ストレッチしながら仕事してもいいスペースがあってすごくいい環境なんですよ。でも正社員だと週5でガッツリ働かなきゃなので…。仕事しながら、レッスン行きたいな〜っていつも思ってました。で、レッスンに行く時間がないから、バイトにして時間を捻出しようと。安定より自由をとりました。人生本当に短いから、すぐ死んじゃうから、やりたいことやろうと。

一同

本当そう!短い!

S氏

僕も会社員の時、ずっとパソコンの前にいて、あーこの時間ストレッチできたらなあって思いながら仕事してましたね。ちょっとトイレ行ってきますってトイレの個室でストレッチしたり。

Fotolia 189470081 Subscription Monthly XXL
みんな会社員を辞めてポールダンサーになってきた!

大会優勝で得られるものは「名誉」

まなつ

さっき金欠だ〜とか仕事の話が出たので、お財布事情を聞きたいな。知らない人からしたら、ポールダンサーはどうやってお金を稼いでるんだって、気になるところだと思うんですけど。女の子はお店で働いてる子がほとんどかな?

マイ

私はインストラクターもしてますね。

まなつ

そういえば大会って賞金あるの?

マイ

ないっす!

S氏

たまに賞金がある大会もあるみたいですけど、基本的にほとんどの大会はないですね。

まなつ

なるほど。現物支給のイメージがある。簡易式ポールくれる大会とかあるよね?

S氏

たとえもらっても、日本への送料は自分で払ってね〜って言われると辛いでしょうね。

まなつ

輸送費だけで普通にポール一組買えちゃうもんね。

マイ

私はトレーニングウェアもらいました、大会の協賛の。

もえ

お金じゃなくて名誉なんですね。

Fotolia 230967149 Subscription Monthly XXL

ポールダンサーの出費内訳

マイ

賞金は出ないんですけど、お金めっちゃかかりますね、大会でるのに。
基本的に自腹だから。

まなつ

ちなみに、大会に1回出るのにどれくらいかかるの?

マイ

この前イタリアの大会に出たんですけど、うーん…まず練習用スタジオのレンタルで6万くらい。あとは衣装、大会用のものを新しく揃えるので数万は飛びますね。渡航費が10万近く…それからホテルですね、滞在費が結構高くて。1泊1万円くらいしました。

まなつ

じゃあ20万近くは飛ぶねえ。

マイ

そうですね、1回の大会で20万は余裕で飛びますね。

まなつ

賞金でたらいいのにねー。

S氏

お金はかかるんですけど、長い目で見たらプラスにはなりますね。やっぱり大会優勝者ってことで仕事がやりやすくなったり、良い仕事が来たりとか。

まなつ

ハクがつくってやつだね。しかし、ポールに限らずだけど、ダンスはお金かかりますねー。

S氏

他のジャンルのダンスに比べてポールダンスはレッスン料は高いですよね。ストリートダンスのレッスンを受けに行ったんですけど、ポールがぶっちぎりでお金掛かります。

ストリートダンスのスタジオだと13000円で1ヶ月レッスン受け放題とかあるけど、ポールはそういうのがなくて、1回3000円〜4000円はするから…。

まなつ

ポール受け放題ってあんまり聞かないもんね。

マイ

やってるところもありますね、少ないですけど。

S氏

朝から晩までレッスン受けてる人とかいそう。

もえ

でも他のダンスと違って、体力に限界がありませんか?

まなつ

そうだね、1日中レッスン受けてたら、握力無くなって終わり頃にはポール握ることすらできなくなりそう。

マイ

オーストラリアで1日4レッスンを週6でやってたんですけど、最後はもう立ち上がれない。帰れない(笑)しんどかった…けど、一番力になりましたね。

まなつ

週6ってすごいなー、それはもはやスタジオに出勤してるよね(笑)

マイ

お疲れ様でーすって掃除機かけて帰ろうかと思うくらい(笑)

ななんせ

海外の人の体力すごくて、昼から夜まで全部のレッスン受けてます!って人結構いるんですよ。みんな3〜4レッスンを連続で受けてて普通みたいな。

まなつ

海外のイベントでナターシャ・ワン(全米チャンプ)に会った時に「ポールはじめた時は楽しくて毎日5時間ポールしてた」って言ってて、イかれてるなこの人は…って思ったんだけど、隣にいたジェニーン・バタフライ(全米チャンプ)が「わかる!私も〜!」って言ってて。わかるんだ!って(笑)

マイ

海外の人は本当に、体力が凄いです。

S氏

はじめたばっかりで毎日5時間の練習は、体力も凄いけど、それだけレッスン受けたり練習するのって日本だと相当お金かかりますよね…。

まなつ

海外は手厚いよね、レッスン受け放題プランがあったり、練習用のフリーポールも使い放題だったりで。

夢はおばあちゃんポールダンサー

編集・仁田坂

ポールダンサーとして…おじいちゃん、おばあちゃんになってもやりたいと思いますか?

マイ

70歳の人がいるんですよ、日本人でイタリアに移住してるトモコさんって方が。イタリアのテレビ番組で大ブレイクしていて。

ななんせ

確か60代から始めたんだったよね。

S氏

トモコさんはポールに腕だけで捕まって、こいのぼりみたいに横向きになる技ができますね。

オーディション番組「ゴット・タレント」のイタリア版に出場したトモコさん

編集・仁田坂

70歳で!そういうのは筋力が必要ではないんですか?

S氏

筋力も必要なんだけど、筋力だけではないんです。バランスとか。あと、中国に、公園の登り棒でポールみたいなことをやってる人がいるらしくて。そういうおじいちゃんになって、ある日ポックリっていうのが理想ですね。

まなつ

それは幸せな最期だね(笑)結局、ポールダンサーってロールモデルがいないからね。50歳、60歳のポールダンサーってまだそんなにいないから、自分たちがその年齢になった時どうしてるのかなって想像がつかない。

ななんせ

ポールを続けて、かっこいおばあちゃんになりたい。

マイ

私も、ちょっと変わったおばあちゃんになりたい。

まなつ

じゃあ基本的にはみんな、死ぬまで続けたいんだ?

ななんせ

続けたいですね〜仕事じゃなくなっても続けたい!

マイ

続けたいですね。

まなつ

私も続けたいね、体が言うことを聞く限りは。

もえ

続けられますかね?

S氏

年をとったらとったで、その時のスタイルがあると思うので。その人なりの体力でできることってのがあるはずだから。何もできなくなるわけじゃないから。

まなつ

そうだね、今やってる、続けてることのベースはあるわけだもんね。

S氏

年とることよりも、腰をぶっ壊しちゃうとか体の故障の方がこわい。何もできなくなっちゃう。

まなつ

身体を労りたいですね。

ななんせ

怪我だけは気をつけたい!

もえ

ポールの後って疲労で体がバキバキになりますもんね…。

Fotolia 230967322 Subscription Monthly XXL

何よりもまずポールがしたい

編集・仁田坂

Sさんは会社員されてたってことなんですけど、どんな仕事していたんですか?

S氏

写真業だったんですけど、フォトレタッチをやっていました。ネットショッピング用の写真を加工するっていう…ひたすらペンでカカカカ…って。たまに横の人からチラって見られて、「その筋肉、写真にいる?」って聞かれて。いらないですって答えてた。

まなつ

写真には筋肉いらないですね(笑)ペンタブが割れる。

S氏

会社終わったらすぐスタジオに練習しに行ってたので、練習は真面目にやってるかもしれないけど仕事は不真面目だって会社では言われてましたね、あんまりよく思われてなかった。でも今は、好きなことをやればやるほど、褒めてもらえて評価してもらえるので、もう嬉しさしかない。

編集・仁田坂

仕事を辞めたきっかけとしては、収入面で不安がなくなったからなのか、それとも会社員なんてもうやってられないなって思ったのか…どういうターニングポイントがあったんですか?

S氏

もう完全にポールにハマってたから、仕事を辞められるんだったらすぐにでも辞めたかったんです。でも、それで食べていけないと困るので、ターニングポイント的には、ポールだけで食べていけるなってなった瞬間があったからかな。

会社員時代から単発の仕事をちょこちょこやってたんですよ。それだけじゃ食べていけなかったところが、固定の仕事をいただいて。あ、食べていけるぞって計算がついたところで、すぐ「辞めます」って言って会社辞めて、ポールの仕事だけでやってる感じです。

まなつ

さよならペンタブって感じですね。

S氏

あれからペン握ってないですね。たまに、フォトレタッチできるっていうと、「じゃあ宣材写真の修正してくれる?」って言われることあるんですけど、もう何も覚えてないんですいません…ってお断りしてます。一つも覚えてないしもうやりたくない。自分のすらやりたくない。それは人に頼んで、その間自分はストレッチしていたいです。

まなつ

ななんせちゃんは、何系のお仕事してたんですか?

ななんせ

化粧品関係の会社に9年勤めてました!

一同

長いねー!

ななんせ

結構自由にやらせてもらって…9年もそんな感じだったので周りの人も諦めてた感じで。

マイ

全然真面目に働いてないよね。仕事中に私にLINEしてくるし。

ななんせ

そう、デスクでLINEしようが、練習で遅刻しようが早退しようがあんまり何も言われない(笑)ゆるい会社でした。

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両立には職場の環境も大事です

メンズポールダンサーの道無き道

まなつ

女子はショーパブとかで働いて稼げるけど、男子は大変だよね。

S氏

そうですねえ、幸い単発の仕事は増えつつあったので大丈夫だったんですけど。ただ会社辞めた時は毎週踊るようなお仕事もしてました。最近はもう無理のないお仕事しかしてないですね。

体を労わる話にもつながるんですけど、基本朝までの仕事が多いじゃないですか。クラブの仕事だと。それが結構疲れるので…朝までの仕事は体力的にあんまりやれないですね。

まなつ

わかる〜!私もあんまりやらない。

もえ

朝までだと、次の日に響きますよね。

S氏

起きたら夕方で体調悪いとかあるじゃないですか。なのでよっぽど受けたい仕事以外はちょっと朝までは…ってなって、受けれないですね。

まなつ

私の場合はイベントが朝までだったら途中で帰っていいか聞く。最後の出番が終わったら帰れるんだったら出ます、みたいな。健康大事ですね、ポールダンサーは健康第一

編集・仁田坂

Sさん的に、男性のポールダンサーがもっと増えて欲しいなーとか思いますか?

S氏

うーん、増えたらいいなあと思いつつ、もっと増えてくれないとやりにくいとかは感じないです。自分のためにとかではなく、ポール業界的に増えたほうが、栄えていくだろうなとは思います。

男性が増えることで、ポールのセクシーな面だけじゃなくスポーツ的な面にも注目が集まるかなと。偏見をなくすことにもつながりそうですし。

まなつ

幅が広がりますよね。

S氏

いい意味でセクシーでかっこいいのに、偏見でただのエロだと思われている。そういうのが、いろんな面があるんだよ、スポーツ的なポールもあるんだよって、男性が増えることで理解が広まるのかなあとは思います。

編集・仁田坂

男性でポールダンサーになりたい人って、検索結果とか見てると多いみたいなんですよ。そういう人に向けてメッセージってありますか。

S氏

最近は、スポーツとしてやりたい人、男性的な振り付けで踊りたい人も増えてきているので、表現の幅はいくらでもあるよと伝えたいです。

例えば、脱がなきゃいけないとかも無くなってきているので、やりたいと思ったらとりあえずやってみたらいいかなと。僕はやりたいと思ってやったら幸せなので、我慢するのはもったいない。

まなつ

今のポール界なんでもありですよね。

S氏

そうですね、なんでもありになってきて。こうじゃなきゃいけないっていうのはないですね。

まなつ

他のダンスと違ってそこがいいですよね。

S氏

どんな曲も使えるし、どんな振り付けもありだし。

まなつ

タブーはあんまりないですね。

S氏

昔だったら、それは美しくないとか、セクシーじゃないって反発を受けることもあったかもしれないんですけど…それも今はどんどん許されてきてる。なんでもありになってきて、楽しめると思うし、僕は楽しいです。

あとは、他のジャンルのダンスをやってる人がポールをやってくれたら嬉しいですね。ロッキンとかハウスとかクランプ、そういう男らしい感じのダンスの人がポールもがっつりやったらまた全然違う感じになると思うので。もともとそのジャンルで一流の人がポールやったらまたすごいショーができそう。

まなつ

すごくカッコ良さそう!見たい!

S氏

そういうの見てみたいですね。

編集・仁田坂

メンズポールダンサーは、バレエの男性より少ない?

S氏

少なさそうですね。

まなつ

男女比は女子が圧倒的に多くて、男子は9:1以下だと思いますよ。プロでも。

編集・仁田坂

どういう世界だって知らない方に、メンズポールダンサーは収入面でどういう比率で稼いでいるのかって…言いにくいですかね?

S氏

それがプロでもそれぞれ全然違うんですよね。全員違う答えが返ってくるはず。ショーが多い人もいればインストラクターが多い人もいるので。モデルやってる人もいたり。僕も、結果的に今は食べれてるけど、じゃあどうやって食べていったらいいかって最初は絶対わかんないと思います。

まなつ

道無き道ですよね。

S氏

自分の過去を振り返って説明することはできるけど、こういう風に食べていくんですよっていうのは人によって違うから言えない。なので、とりあえず言えることはポールやってみたらいいと思いますってことかな。

まなつ

やるしかないんですよね。迷わずやれよ、やればわかるさみたいな。

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ポールダンサー、カッコいい…

横のつながりが大切

編集・仁田坂

聞けば聞くほどすごい世界。特殊ですね。

S氏

他のジャンルに比べてショーが多いので、ポールは仕事につながりやすい。お金をもらえる現場が多い。他のジャンルのダンサーさんと話すと、こんなにダンス上手なのに食えないんだ…と思うこともあります。ポールはギャラの出る現場があるので。

まなつ

売り手市場ですよね、最近は。

編集・仁田坂

それは日本特有?

S氏

他の国の事情にそんなに詳しくないですけど、ポール自体、ショーをする現場が多いんじゃないかなと思います。例えばバレエをすごいやってて、めちゃくちゃ上手でもそれを仕事にできる人って一握りじゃないですか。

ななんせ

発表会に出るしかないですよね、踊りたかったら。

S氏

ポールだったら、横のつながりで、あのお店で〜とか仕事が見つかりやすい、そういう意味では仕事につながりやすいのかなと。

昼間の時間は有意義に使う

編集・仁田坂

ななんせさんは9年働いてた職場を辞めたとの事ですけど、辞めないって選択肢もあるじゃないですか。

ななんせ

兼業で1年やったんですけど、副業禁止の会社で…内緒でやってました。それが体力的にずっときつくて。眠いし。それでも朝は会社に行かなきゃなんで9時には会社行ってました。

でもこの会社に私の未来はないなって思って、今のお店で働きたいと思って辞めました。これで踊りきって満足したら就職してもいいし、この先どうするかは決めてないです。前の仕事は誰でも働ける内容だったけど、ポールダンスは努力し続けなきゃいけない。くじけそうなこともあります。

まなつ

昼働いて夜も出るのは本当に大変だよね。

ななんせ

週5で9時間拘束されるのが本当にしんどくて。昼間はもうちょっとなんか違うことしたいなって。そこまで給料も良くないし、将来ここにいても良くならないってわかったら、やりたいことやろうって。どうせ死ぬし。40歳50歳になって、あのとき踊っとけばよかったって思いたくなかった。

まなつ

時間がないもんね、昼夜両方やってるとね。

もえ

本当にね、時間なくて死にますよ。みんなすぐ死ぬのに。

編集・仁田坂

みなさん専業で、昼間は何してるんですか?なんとなくまなつさんの話は聞いてて、マッサージ行ったり焼肉行ったり自由にやってる話は聞いてるんですけど。

もえ

私はまだ昼間は事務してます。夜はお店で働いてて。終電までですね。でもレッスンに行く暇がないですね。レッスン行きたい。それで正社員じゃ時間が足りないのでアルバイトになりました。2年アルバイトしてて、正社員にしてもらったんですけど、1ヶ月でアルバイトに戻してもらいました…。

編集・仁田坂

会社の人にはポールダンスやってるってことは言ってる?

もえ

言ってます。お店で働いてることも言ってます。副業OKな会社なので。

編集・仁田坂

会社の人は来たりする?

もえ

来ない(笑)来ないけど、ポールダンスの方が大事なんで、って言ってます。
時間が自由なので会社は続けたいな、って思ってるけど、事務の仕事なのでポールに全然関係ない。よくしてもらっていて、会社に貢献したいから働いているけど、本当に人生短いから、今この無駄な…無駄とまでは言わないけど、ポールダンス以外の時間を過ごしてていいのかなって。もっと上手になりたいから、転職しようかなって考えてます。

まなつ

マイちゃんは昼間は何してる?

マイ

私はインストラクターとしてレッスンをしていて、それがない時は自分の練習をしたり。ペットと遊んでリフレッシュしたり、家事ですね。

まなつ

ポールダンサーの昼間は普通の人のアフター5みたいな感じですよね。

マイ

昼の時間を有効に使いたいですね。レッスンをやるようになって、起きなきゃいけないから午前中から活動することも多いです。

まなつ

昼過ぎまで寝てるって人もいるよね。14時くらいまで寝てる的な。逆にそれだけ寝れるのも羨ましいけど…。

マイ

寝すぎると体の調子も悪くなるし、踊りに支障が出ますね。

ななんせ

人として…昼間はちょっとは日光を浴びようって思います。

まなつ

わかる!午前中に起きようって思う。

立ち昇るオーラに憧れる

編集・仁田坂

改めて見たらみなさん筋肉すごいっすね!焼けてるし。照明のせいもあってかなりキレてる…。

まなつ

ポールダンサーって、すごい焼けてる子と真っ白な子に分かれるよね。

編集・仁田坂

なんか派閥とかあるんですか?

まなつ

派閥ってわけじゃないけど、すっごい焼けてる先生のところに通ってる子は自然と日焼けしていく感じですかね。憧れて似ていくみたいな。

もえ

インストラクターによって客層違いますよね。スタジオによっても全然、通ってる人のカラーが違う。

まなつ

本当、その先生のところに行ってるんだなってのがわかる子もいるくらい。

マイ

私、その気持ちわかります…フェリックス好きすぎて同じタトゥー入れちゃいました。

まなつ

フェリックスっていうのは、オーストラリアの伝説的なポールダンサーです。フェリックス・ケーンってリビングレジェンドって言われてて、世界大会で優勝して自分のスタジオ持ってる人。カリスマ的存在かな。

フェリックス・ケーンのポールダンス

マイ

その人が好きすぎて、サインもタトゥーにしてもらいました(笑)

編集・仁田坂

サインってなんですか?

マイ

これです。(腰のタトゥーを見せる)

まなつ

すごい顔可愛くてムキムキで、アニメ声だよね。

マイ

可愛らしい見た目なのに、Fワード連発したり、強烈な事言ってますよ。レッスン中は自由な感じです。あと最近豊胸してて、めっちゃでかいおっぱい入れましたね。ちょっとポールするのに邪魔そう(笑)

編集・仁田坂

その流れで、皆さん憧れのダンサーさんっていますか?

マイ

フェリックス!

まなつ

私もフェリックス。可愛いし、オーラがある。独特のスタイルがあって素敵。

マイ

オンオフがすごい。ステージにいる時は全然違う。オーラが湯気のように立ち上ってる。でもステージを降りるとFワード全開で面白い。踊ってる時は神々しいのに(笑)

ななんせ

私は特にこの人って人はいないかなあ。

まなつ

もえちゃんは?

もえ

私は…あ、これ消されちゃうかもなんですけど(笑)まなつさんのことが本当に好きなんで。私、初めて見たポールダンサーがまなつさんだったんですよ。

まなつ

大丈夫です、消しません。ここだけ太字にしておきます(笑)

だいたいみんな、初めて見たダンサーがすごく素敵で…って、始めるきっかけになるダンサーさんはいるかなと。

IMG 1043  1
大事なことなので太字に

おっぱいはポールダンスするのに必要か

編集・仁田坂

さっきの、フェリックスが豊胸してて胸があると邪魔そうっていう話なんですけど、邪魔なんですか?

まなつ

脇に挟む技のとき、邪魔だよね。胸が当たってうまく挟めない。私は脇に挟む系の技を練習するのが大変です。

マイ

私はおっぱいあったんですけど、練習しすぎて胸のサイズが落ちましたね…気づいたらすごいブラがぶかぶかになった気がするって。

編集・仁田坂

ちなみにみなさんは、得意技とかあるんですか?

マイ

得意ではないんですけど好きなのはスパッチコック。フェリックスになってる気分に…

こちらがスパッチコック

まなつ

フェリックスになってる気分、ってなんかえっちだなー!(笑)ななんせちゃんは?

ななんせ

得意技ー?えー、ないなあ(笑)まだ…これからです!

もえ

私も、これからです!

何かあったら物理で解決

編集・仁田坂

ただの感想なんですけど、皆さんすごく普通で…。

ななんせ

普通ですよー!

編集・仁田坂

筋肉とかは普通じゃないんですけど、なんていうか、あんまりギスギスとかしなさそうですよね。

ななんせ

ギスギスしないですね。

まなつ

しないね。派閥もない。あったとしても結局、実力主義だし。

もえ

ポールダンサーはいい人ばっかりですよ!

編集・仁田坂

今日話を聞いて、みんないい人だなと…。

もえ

ポールダンサーはみんなポールが好きで、ただただポールが好きなので、同じ趣味の人同士仲良いですね。

編集・仁田坂

あと、話を聞いてて、あんまり精神世界に寄ってる人がいないなって。ヨガとかはいるじゃないですか。チャクラが開く、みたいな…。ポールダンサーは全部、物理に能力値が寄ってるというか。

まなつ

我々は地に足がついてるんです。物理的には空中にいる時もあるけど。

ななんせ

あんまりチャクラとかよくわかんない(笑)

まなつ

スピリチュアルとか好きな人は好きだけど、基本的には物理で解決ですよね。筋肉に相談だ!って。具合悪かったら筋トレするみたいな。血の巡りが悪いんじゃない?ポールしたほうがいいよ!みたいな。

編集・仁田坂

健康がテーマなんですね。

まなつ

健康じゃないとポールできないですしね。

ななんせ

会社を辞めてしまったからには健康じゃないと、何の保証もないので。病気して休んだらそのぶんのお金も入らないし。ちゃんと寝てます。お酒を飲みすぎない。変なものを食べない。

もえ

ほんとそれ、社保もないし…。

ポールダンサーは悩まない

編集・仁田坂

このポールダンサーが嫌いだってあります?

まなつ

具体的にこの人!ってのはないけど、自分のスタイル押し付ける系の人は嫌かなあ。自分のスタイルが一番で、それ以外はダサいとか言う人。ヒール履くの至上主義!それ以外は邪道!みたいな人とか。ヒールにはヒールの、裸足には裸足の美しさがあると思うので。自分を貫いているのは素敵だけど、他人をdisらないと自分をあげられない人は嫌かな。他者をリスペクトできる人が好き。

マイ

仕事に穴を開ける人かなー。責任感のない人は苦手です。

まなつ

良くも悪くも他人がどうでもよくなるので、誰が好きとか嫌いとかあんまりないっすね。強いて言えばキャラ被りしたくないとは思う。その日の衣装とかショーの演出がかぶるとちょっと気まずい(笑)

仕事をしてると、上手いとか下手とか関係なく、お互いのリスペクトがあるので。同じ仕事で大変なのもわかるし。もし好き嫌いがあるとしたら単純に性格だよね。

編集・仁田坂

なんかこれ、普通にいい話だ…ポールダンサーはいい人が多い。

もえ

あっさりした人が多いですよね。

まなつ

ポールダンスをしているうちに、あっさりしてくるのかもしれないよね。自分のことに精一杯で。

ななんせ

自分の練習に精一杯で、どうでもよくなる。

もえ

みんなポジティブですよね。

まなつ

筋肉使ってるからセロトニン出てるんですよ。悩まない。

編集・仁田坂

ネチネチしてなさそうですもん、皆さん。

まなつ

考えたって仕方ないよそんなの、ポールやろ!!そんなことより練習しようぜ!みたいな。

ななんせ

いい人が多いですよね。

まなつ

いい話になってしまいましたね…。みなさん、良いお話をありがとうございました!

おっぱいが大きかったので会社員を辞めてポールダンサーになった話 第8話 この世界で生きていく

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ポールダンスならどこでも食えるかと思った

ポールダンスを始めて、私の人生は確実に良い方向に変化した。
一つ一つ感謝し始めたらキリがないほど、私はポールダンスを通じてたくさんの目には見えない贈り物を受け取ったと思う。
ポールダンスは私に、健康な体と食べていくのに困らない収入を与えてくれた。
会社員を辞めたい!と思ってすぐに辞めることができたのも、ポールダンサーとしてフルタイムで働けば当座は食べるのに困らないとわかっていたからだ。
もちろん水商売なので、普通の仕事と違っていつクビになるかわからなかったり、給料未払いになるかもしれない、とかリスクは多い。
それでもチップもあったし、いざとなったら他にもお店はあるし、とその辺はあまり深刻に捉えていなかった。
もとより上京した時は5万円しか持っていなかったわけで、何も持っていなかったところからの今。怖いものはない。
三畳一間でも暮らせるし、おかずが納豆だけでも別に大丈夫。電車賃がなかったら歩けばいい。
サバイブする術だけは常に考えて生きていた。
そう考えたら、多少のリスクはあれど、ポールダンサーはその日に現金でギャラをもらえるし、夢のような仕事だった。

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おっぱいが大きかったので会社員を辞めてポールダンサーになった話 第7話 ポールダンサーであるということ

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ポールダンスの大会「MISS POLE DANCE JAPAN」

競技としてのポールダンス国際大会は2005年、オランダから始まった。
現在では世界各国で、様々な種類のポールダンス大会が毎月のように開催されている。
そして日本では2011年から、「MISS POLE DANCE JAPAN」が毎年行われるようになった。
事前に動画を提出する予選があり、予選を勝ち抜いた選手は決勝に進出する。
決勝戦はチケットを買うと観覧することができ、ポールダンサーがこぞって見に行く。
そう、この大会の観覧者のほとんどは、ポールダンサーやその友人・知人・家族たちなどの関係者で埋め尽くされている。
近いジャンルだとフィギュアスケートや体操などは一般に浸透し、幅広い年齢層から認知されて大会などに足を運ぶ人も多いだろう。
ポールダンスは、最近でこそテレビなどのメディアで取り上げられるようになったけれど、それでも大会まで見に行きたい、という人はなかなかいないように感じる。

そのMISS POLE DANCE JAPANに、私も出場しようとしたことが一度だけある。

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おっぱいが大きかったので会社員を辞めてポールダンサーになった話 第6話 道無き道を行く

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フリーランス・ポールダンサー

大好きな店をクビになり、とりあえずで古巣に戻ったはいいものの、やっぱり私はポールダンスをしたかった。
ポールダンスのないお店では自分の魅力を発揮しきれないと思った。
それに、毎日3回を週6も踊っていたから、体を動かさないとなんだか気持ちが悪い。
ただ座って話すだけのお店では落ち着かない体になってしまっていた。
バニーは週3程度にとどめて、ポールができるお店を探し始めた。

都内だと六本木や歌舞伎町にその手のお店は密集している。
そして六本木のお店は、当時、トップレスやプライベートダンスなどのサービスがあるところばかりだった。
そういうお店の女の子はほとんどが外国人だし、真面目にポールダンスのショーをする雰囲気ではあまりなかった。
とにかくポールがしたい、踊れるお店を探さなければ。
夜のお店の求人サイトで検索をかけたりして、出てきたお店に片っ端からアポを取り面接に臨んだ。
そのうちの何店舗かに入らせてもらえることになり、掛け持ちしながらショーに出るようになった。

その頃には、単発のパーティの仕事なども月に数回入るようになっていた。
自分がメインゲストの、ショーケースの仕事。
平日はショークラブを掛け持ちして、週末はクラブやパーティでショーケースやGOGOポールをするようになった。
収入的にも、一つのお店で働くより掛け持ちする方が良かったし、名前を売るためにもいろいろな場所に顔を出した。
とにかく飲みあるき、たくさんの人と話し、自分がポールダンサーであることを打ち明けた。
名刺を配り、これくらいのギャラと交通費でショーをやります、こんな会場でできます、というのをわかりやすく説明した。
パーティに出演するときは、ショーの後に必ず会場に出てお客さんと交流した。現場を見てくれている人に営業するのが一番効果があるからだ。ショーの後は疲れるので楽屋に引きこもりっぱなしのダンサーもいるけれど、このころの私はどんなに疲れてもすぐにメイクを直し、名刺入れを握りしめて会場に舞い戻っていた。
まだまだポールダンスがどんなものかすら、人々に浸透していなかった頃で、それが功を奏してたくさんオファーを頂くことができた。
物珍しさから会社の忘年会や総会の出し物として使ってくれたり、結婚式の二次会で踊ったこともある。
仕事はどこにでもある。
仕事を作ろうと思えば、そこが世界の果てでも踊ることはできる。

営業と同じくらい大切なのが、自己との対話でありセルフプロデュース。
自分がどんなキャラクターなのか、自分の容姿や踊りにどんなものが求められているのか、自分自身との対話をとことん繰り返し見定めていく。
自分の良いところ、魅力、人目につくところを徹底的に洗い出し、それを最善の方法でアピールする。
それは、もしかしたら人によっては精神に異常をきたす程の辛い作業かもしれない。
良いところを知るには、自分の嫌なところにも目を向けることになる。しかし、人から見たらその嫌なところがとても魅力的だったりするかもしれない。
自分を客観視し、どのように売り出すかを決めて、常にアップデートを怠らない姿勢は、良いポールダンサーの一つの条件ではないかと思う。

つまるところ、この洗い出し作業がしっかり出来ていないと、人より一つ抜きん出た存在にはなれない。
ただ姿形が美しくポールが上手なダンサーよりも、自分の魅力をしっかり理解し、自分の世界観を持って踊っているダンサーの方が如実に売れていく。
どんな職業にもいえることかもしれないけれど、自分が何者かということを自分で見定められている人は、どこに行っても強い。

ショークラブの世界

いろいろな現場をこなしながら、仕事のあまり入らない平日はショークラブで踊る。
事前にシフトを出しておけば確実にギャラがもらえるお店の仕事は、生活を安定させるためには欠かせない。
何より定期的に出演することで、固定のファンができたり、お店の他のダンサーとのネットワークが強固になる。

お店でのショーは、普段のセルフプロデュースなショーケースとは違い、他の人が全て演出を決める。
いつもは一人で踊るけれど、お店ではみんなで踊る。
立ち位置があり、フリが決まっていて、衣装も統一されている。
人と踊るのはあまり得意ではないけれど、決まったフリで踊るのは学芸会や運動会を思い出して、ちょっと楽しい。
やはりソロとは違い、群舞には群舞の良さがある。
何より大人数でのショーケースはとても華やかだ。
女の子が同じ衣装を身にまとって同じ振り付けで踊るというだけでも見応えがある。
大所帯のアイドルにハマる人の気持ちが少しわかる気がする。見ていて楽しくなってくる。
踊っている方も、うまくフリが決まれば気持ちいし、練習は部活みたいなノリで和気藹々としていたりする。
一方で、間違えた時のプレッシャーや申し訳なさもあり、楽しさと緊張がうまい具合にないまぜになった気持ちを味わえる。

よくお客さんに
「女同士でドロドロしてるんじゃないの」
とか、
「いじめがあったりするんでしょ」
と言われるけど、少なくとも私の働いているお店では聞いたことがない。

というのも、ポールダンサーは実力主義、ポールの上手い人がひたすら尊敬され、あがめられる。
さらに同じ痛みや苦悩を味わった者同士として横のつながりも強いため、そこまでドロドロしたものは感じない。
あくまで私の観測範囲は、ですが。
ポールダンスという変わったことに精を出す者同士、少なからず連体感はあるように思う。
我の強い女たちが集まる割には、皆マイペースに自分のやるべきことをこなし、我関せずでうまいことやっているように見える。
尊重すべきところは尊重し、その上で「自分のショーが一番素敵」と思えるメンタルの強さもある程度は必要なのかもしれない。

大体、第一線でガンガン踊っているダンサーは自己肯定感が高めで、他の人と自分を比べたりしない。
自分には自分の魅力があり、それを最高だと評価しつつ、人のショーを楽しむ心の余裕がある。
それを両立させることができる。
人と自分を比べすぎるあまり、自己嫌悪に陥ったり、ものすごくストイックに練習を重ねている人もいる。
それはそれで、ものすごい強みだと思う。
何をバネにするかは人それぞれであり、たとえ発端が自己嫌悪だったとしても、自分の望む場所へ到達するまで歩みを止めないことが何より成長につながるからだ。
意識をどこに置くかに正解はないし、ただただ己が道を行くのがポールダンサーの常である。

私の場合は、ポールダンスを始めるまでダンスというものを一切やったことがなかったので、他のダンサーと自分を比べてしまい劣等感にずっと苛まれていた。
ダンスの素養もないのに、運動もしていなかったのに、私がステージに立っていいのだろうか?
数多いる、バレエや体操を基礎とした素晴らしいダンサーたちに囲まれ、自信を失っていた時もあった。
また、衣装の調達も我流だったため、素敵な衣装を身につけた他のダンサーと同じ現場に入る時は、引け目を感じることも多々あった。

私には、何ができるだろう?
ポールダンス、確かにすごいことなのかもしれないけど、自分よりもはるかに美しく踊り、きらびやかな衣装を身につけ、素晴らしいパフォーマンスをしている人がたくさんいる世界。
そんな中でも、自分を見失わずに踊り続けることができているのは、お客さんの存在があるからだと思う。
特に印象に残っているのは、最初に働いたガールズバーの照明を取り付けてくれた業者さんだった。
オープンして数日経った時に、照明の調整も兼ねて来店し、ショーを見てくれた。
ヨーロッパから取り寄せたという最新の照明器具を存分に取り付けていたので、ライティングはかなり豪華だったように思う。
こういうライトを使っているから、こんな衣装を着ると綺麗だよ、とその業者さんはアドバイスをしてくれた。
まだ衣装が少なくて、他のダンサーに比べたら見劣りするかもしれないですね、と言い訳する私に、その人は「あなたが見せたいのは衣装じゃないでしょう?」と言った。衣装はあくまで衣装なんだから、あなたが踊れば場が華やかになるんだよ。あなたが見せたいものを踊っていることが大事なんだよ、と。

それから私は他人と比べることをやめた。
他のダンサーを意識することをやめ、目の前にいるお客さんを楽しませ、喜ばせ、そして何より自分が楽しく踊ることに注力するようにした。
自分が楽しくなかったら、意味がないし、ポールダンスを辞めるとしたら楽しくなくなった時だと思う。
その場にいるお客さんを意識しすぎて、どんな風に踊るかめちゃめちゃ迷う日もある。けれどそういう時は、初心に立ち返り、まずは自分が楽しく踊れる曲を選ぶようにしている。
結果として自分の気持ちが乗ることが、その場を沸かせることにつながると肌で感じている。

ポールダンサーは良い意味で変わった人、マイペースな人が多い。
というか、ポールダンスを始めたことによって、変わっていくのかもしれない。
今まで、ただ地上を歩くだけでは知ることのなかった感覚を覚え、宙に浮き、逆さまの世界を見る。
自分の腕だけで自分の体を支える確かな感触や、ポールに登り高い視点からはるか下を見下ろす瞬間。
トリックが決まり、音と重なり、パフォーマンスを賞賛する拍手を浴びながら呼吸を整える。
ポールダンスをすることがなかったら味わうことのなかった全ての感覚が、人を少しずつ変えていく。

ポールダンスはどこで習えるのか

都内には現在7~8か所のポールダンス専門スタジオがあり、そこではアマチュアから専業ポールダンサーまでたくさんの老若男女が日々ポールダンスに励んでいる。
そんなにスタジオがあって一体何を基準に、習う場所を選ぶのか?と問われれば、それは単純に家から近いとか、そんな理由が多いように思える。
または憧れの先生がいるとか、レッスン料金が安いとか、スタジオが新しくてきれいだとか、そう大層なものでもない。
そこに集まった人々は、同じスタジオで苦楽を共にし、痣を作りながら学んだ同士としてより一層絆を深めていく。
深夜から朝の安い時間帯に共同でスタジオを借りてみんなで練習をしたり、発表会の前に集まったりすると、まるで部活のような連帯感が生まれる。
学生に戻ったみたいで楽しい、と深夜練や発表会に参加する人は言う。
ポールを習いたい人は何もプロになりたい人ばかりではない。単なる趣味の人が大半のはずだ。
それでも、単なる趣味で始めたのにいつの間にかプロフェッショナルになっていたり、世界チャンピオンになったり、ポールのスタジオを立ち上げたりしている人もいる。
それだけポールダンスには何かのめり込んでしまう魅力があるのだけは確かだ。

レッスン料金は、平均して1レッスン3000円前後が多い。
月謝制やコース制のスタジオもあるし、ドロップインといって1回ずつ単発で参加できるところもある。
レッスンはグループで行われ、先生とマンツーマンの指導を希望する場合は特別に予約が必要だ。
その場合、レッスン料金も通常の2~3倍高くなる。

1回のレッスン時間は60分から90分。
ウォーミングアップ、技の講習、振り付けのおさらい、ストレッチなどを含み、教える人によってその内容は様々。
例えば、とにかく肉体を鍛えたい!という目的の人は「パワー系」と呼ばれる筋肉を必要とする技ばかり教えるレッスンを受ける。
ショーパフォーマンスができるようになりたい!と思うなら、セクシーなムーブメントを重点的に教えてくれるレッスンや、ウォーキングのコースなども良い。

ちなみにいまポールダンス界で流行りなのは「ヒールワーク」だと思う。
Heel floorworkの略語で、高さ20センチの厚底ヒールを履いて、ポールにあまり登らず、地上で華麗な身のこなしをすることを指す。
重い上に不安定で動きづらいヒールを履いた足を自由自在に操り、美しい足さばきと女性らしい振り付けを演出するにはかなりの筋力が必要だ。

高いヒールで踊ることがちょっとしたムーブメントになっているのは、一昨年、昨年と東京で開催された開催されたポールダンスの世界大会「ポールシアター」が発端になっている。

昨今、ポールダンス界は「ポールスポーツ」と銘打って、ポールダンスのイメージをよりスポーティな方向へ変えようとしている。
これは世界的な動きで、もしかすると次のオリンピックには「ポールスポーツ」が正式種目となっている可能性すらある。
まるで体操選手のような爽やかなスポーツウェアに身を包んだ男女が、きりっとした顔つきでポールの技を決めている画は、世間一般の「セクシーなポールダンス」のイメージとはかけ離れている。

ポールシアターはそんな世界的な動きとは真逆をいくように、芸術性やセクシーさ、よりドラマティックにエモーショナルに踊ることを評価する大会として知られている。
そもそも、アメリカのストリップバーから広まっていった(とされている)ポールダンスは、日本においてもストリップダンサーやトップレスのゴーゴーダンサーが先陣を切って広めてきたものだった。
しかし、その世界的な流れや、ある種の大会における「現役ストリップダンサーの出場禁止」など、スポーティなイメージを保つための規制が少なからず波紋を呼んでいた。
そんな中、ポールシアターはそのような規制もなく、表現力やストーリー性、内から滲み出る魅力こそを評価しようという姿勢で、ダンサーから評価が高い。

ポールシアターは「ドラマ部門」「コメディ部門」「ポールクラシック部門」など表現の方法で部門がわかれている。
件の高いヒールを履いて踊るスタイルの部門は、「ポールクラシック部門」
ポールダンスが広まるきっかけとなったストリップダンサー達のように、高いヒールを履き、セクシーなムーブメントを盛り込んだ、伝統的なスタイルのポールダンス。
それがこのポールシアターにおいてはポールクラシックと呼ばれている。
現在開催されている大会のほとんどは「衣装の脱衣」が禁じられているが、このポールクラシック部門ではそれが可能。
通常はフルバックのところを、Tバックの着用が可能で、開催国によってはトップレスになることもOK。

オリンピック正式種目という、ポールダンサー界全体の大きな目標を達成するために、スポーティであったり清潔なイメージを暗黙の了解で推し進めている空気がある。
そんな中、このポールシアターは、セクシーだったり少しダーティなポールダンスのスタイルを大切に踊っていきたいショーダンサーたちの貴重な受け皿となっている。
自分たちが表現したいことをありのままに踊り、それが評価されることの喜びは、ダンサーであれば誰もが欲するものではないだろうか。
誰もが楽しめるエンターテイメントも素晴らしいけれど、ポールダンスが世に出るきっかけとなったセクシーなスタイルのパフォーマンスも、大人が楽しめる上質な文化として世に根付いていくよう祈りながら、日々踊っている。

第7話につづく)

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おっぱいが大きかったので会社員を辞めてポールダンサーになった話 第5話 職業、ポールダンサー

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踊り子の朝は遅い

起床、14時。
ぐーっとベッドの上で体を伸ばし、寝たまま簡単なストレッチをする。
寝ぼけたまま肩や背中をほぐし、少しずつ意識を覚醒させる。
動けるくらい目が覚めてきたら、映画か海外ドラマを見ながら開脚前屈。ついでにノートPCを脚の間に置いて、前屈しながらのメールチェック。
仕事のメールを何通か返し、人のブログを読んだりニュースサイトをチェックする。体側や首、腰まわりなども念入りに柔軟する。

柔軟しているとお腹がすいてくるので、ご飯を作って食べる。タンパク質多めの食卓。お米も好きなので大体和食になる。
料理は好きだが、毎日するのは結構手間なので、まとめて作って数日同じものを食べる。今日は豚汁、飽きたらカレールーを落として和風カレーにしちゃおう。

食事を終えたら仕事の支度を始める。
シャワーを浴び、髪を乾かしてセットし、化粧をする。ベースメイクとアイメイクをしておいて、つけまつげは店に着いてからつける。
今日使う衣装と靴を選んでカバンに入れる。新しいショーで使う小道具とCDも忘れてはいけない。

今日のシフトは18時~3時。9時間の肉体労働の始まりだ。

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おっぱいが大きかったので会社員を辞めてポールダンサーになった話 第4話 昼の世界へ

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憧れの会社へ入社

その時、私は混み合う狭い更衣室で、薄紫のバニースーツに着替えている最中だった。
昨日下ろしたばかりのエナメルのヒールのストラップを留め、襟元にリボンをつけ、鏡に向かってウサ耳の角度を調節している時、携帯が鳴った。

「もしもし…はい。え、本当ですか?はい……はい。わかりました。ありがとうございます」

電話を切り、一息置いてからやったー!と叫んで小躍りすると、網タイツを履きかけのバニーちゃんたちが一斉に振り向いた。
どうしたの?いいことあったんだ?と、仲良しの同僚に尋ねられ、私は面接を受けた会社からの採用の電話だったんだ、とこっそり告げた。

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おっぱいが大きかったので会社員を辞めてポールダンサーになった話 第3話 あてのない自分探し

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趣味、ポールダンス。

ついにその日が来た。今日は初めてのポールダンスレッスンの日。
必要なものは、ショートパンツ、Tシャツ、タオルに水。しっかりとカバンに詰めてスタジオへ向かった。
雑居ビルの一室のドアを開けると、そこは鏡張りの部屋になっていて、ポールが何本も立ち並んでいた。自分より先に来ていた他の生徒が早速ストレッチを始めていた。

こんな風にわざわざどこかへ行って、お金を払ってまで運動するなんて。私の人生にそんなことがまさか、起こるなんて思わなかった。ものすごくドキドキした。

レッスンの最初はゆったりとした曲が流れる中でストレッチをじっくりと行う。ポールダンスに欠かせない上半身、肩周りや首を念入りにほぐしていく。何種類ものバリエーションを組み合わせ、可動域を少しずつ広げて体を温める。
開脚前屈をしていると、後ろから先生が押してくれる。が、体が硬すぎて全然前にいかない。開脚の角度も90度くらいで止まってしまう。背後から先生が少し呆れている気配がする。それでも、思い切り息を吸って、吐く息に合わせて先生が押すと少し前屈が深まった。

鏡に映る自分と目が合う。こんな風に真面目にストレッチしている姿を、高校の時の体育教師に見せてあげたい。授業をサボりまくっていた私にも、親身になって指導してくれるとても良い先生だった。留年しないためには学校の周りを36周走らなきゃいけないんだよ、大変だと思うけど、俺も付き合うから一緒に走ろう、と言ってくれた先生。彼が今の私をみたら驚くに違いない。

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おっぱいが大きかったので会社員を辞めてポールダンサーになった話 第2話 新宿二丁目でポールダンスと出会う

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「女性に魅力を感じる自分」を知った

上京から1年経つか経たないかの頃だったと思う。
私は自分のセクシャリティについて大いに悩んでいた。
それまで男性としかお付き合いしたことはなかったが、女性に魅力を感じる自分がいることは、もはや否定しようのない事実だった。そしてそれは、金も自由も情報もない田舎の生活の中では、見つめようのないことだった。

周りは彼氏がいるのが当たり前。高校を出たら進学するか就職し、ある程度働いたらその時付き合ってる彼氏と結婚。家庭に入り、子供ができて、家を持って、しあわせに暮らしましたとさ。という、2016年現在ではもはや高望みなのでは?と思えるような生活。進学も就職もしなかった私はかなり異端だったし、そのことで田舎にいたころの私は肩身の狭い思いもしていた。

それに加えて、私は女性への恋心を周囲へひた隠しにしていた。

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おっぱいが大きかったので会社員を辞めてポールダンサーになった話 第1話 ここではないどこかへ

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留学、そして上京

高校を卒業して1年ニートをした後、ロンドンに留学した。
生まれてこのかた家族とそりがあったことなど一度もなかった私は、早々に故郷へ見切りをつけ、石畳の道が骨身に染みる街で約1年暮らした。
逃げ出すようにやってきた場所で目標なんてあるはずもなく、とにかくお金がなかったので日本人キャバクラのウェイトレスをしてどうにか食いつないでいた。ナイトバスを乗り継いで深夜のバイトから帰宅した後はウォッカを煽って眠り、学校をサボる日も増えていった。ワインやシャンパンの抜栓は日増しに上達し、人手不足の店の経理まで任されるようになったけれど、ロンドンは寒すぎたし天気もいつも悪いし、ビザも切れそうだったので、おとなしく帰国した。

その頃には20歳になり実家へ帰ったけれど、問題は何一つ解決していなかった。つまり家族仲は険悪なままだし、私にとってそこは世界で一番居心地の悪い場所だった。
その時の所持金は日本円で約5万。PCとiPod、ロンドンで買った服が少々。それら全てを小型のキャリーケースに詰めて、東京行き高速バス乗り場まで母に送ってもらった。「あんた次いつ帰ってくるの?」と母は聞いた。なんて答えたかは思い出せないが、風の吹きすさぶボロいバス停で、「泥水すすり草を食んでも、絶対に地元には戻らない」と、強く心に誓っていた。

とはいえ上京した先に大したアテがあるわけでもなかった。今考えてみるとかなり無謀だったと思う。
上京して最初の二週間は、友人の家に居候させてもらった。その間に、キャバクラの体験入店を転々とした。ロンドンでウェイトレスをしていた経験のおかげで、どのように振る舞えばいいかはなんとなく掴んでいた。ホステスさんをつぶさに観察していたので、何をどうするかだけはわかっていた。ありったけのヘアメイクで、西は吉祥寺から東は上野まで、ありとあらゆるお店にお世話になり、小銭を貯めた。
貯めたお金で知人が入居していたシェアハウスに逗留できる運びになった。驚きの三畳一間和室。入り口は、障子戸。窓はなし。キッチンや風呂場は他のシェアメイトと共同。ロンドンでシェア生活には慣れていたけど、三畳の部屋に住むのは初めてだった。

その三畳の部屋から、夕方5時には店の指定の美容室へ行ってヘアセットをし、ワンセットが20000円の高級キャバクラで働き始めた。「三畳一間に住んでるんです」というと心底同情されるか、話を盛ってると疑われるかのどちらかだった。
とはいえ私自身はこの三畳一間の生活を結構気に入っていた。立って半畳、寝て一畳なんていうけど、三畳もあったら贅沢じゃん、物もそんなにないし全然暮らせるな!という謎の自信を持ち始めていた。もとよりロンドンにいた時も食い詰めそうなほどの極貧生活で、バイト先から支給されるわずかなバス代や食事代をケチって貯めたり、シェアメイトに食事をもらったり、早く移動できる電車ではなく安いバスで渋滞に揉まれながら通学するなどケチること自体に慣れてはいた。なので三畳で暮らしていることを誇りにさえ思い始めていた。

部屋には何の問題も感じなかったが、高級キャバクラで働き続けるのはメンタル的に無理だ、ということと、夜遅く帰ってシェアメイトに迷惑をかけるのが嫌だったのでお給料を貯めて高円寺に引っ越すことにした。

なぜ高円寺だったのか。
徒歩圏内にいろんなお店がある雑多な雰囲気や、友人が住んでいたことも一因ではあったかもしれない。まるで人種のるつぼ、怪しげな店と劇団員とバンドマン。何もかも知らないことばかりだった。初めてタイ料理を食べたのも高円寺だったし、道端で寝ゲロにまみれて寝ているサラリーマンさえとても新鮮に見えた。そんなところに魅力を感じて、私は中央線のインドこと高円寺へ居を移した。

何もない自分に打ちのめされる

キャバクラを辞めたものの、その後もズルズルと水商売を続けた。
といっても、このころの私は本当にトーク力が皆無だった。話がつまらない上に、自分が何者であるか、どんなチャームポイントがあり、どういう風に見せれば魅力的であるか。何一つわかっていなかった。若さしかなく、キャバクラや高級クラブで働けるような頭の回転の良さも持ち合わせていなかった。
水商売には致命的な欠点である。

そして、何の特技もなく、また体力もなかった。
生まれてからずっと田舎で暮らしていたせいか、都会の人ゴミに飲まれるとめまいがし、熱を出してしまう。比喩ではなく本当に熱を出して寝込むことが多々あった。1〜2時間ほど歩いただけでも立ち上がれないほど消耗したり、そこから数日外に出られなくなったりもした。朝も弱く、14時頃に起きられればいい方だった。

夜の仕事が良かったのは、朝起きられなかったせいもある。歌舞伎町のガールズバーで朝まで働き、始発で帰り、夕方まで寝る。ご飯を作って食べて、化粧をして、また仕事。それでも週に3~4回出勤するのが精一杯だった。正直、このころどんな風に生活が成り立っていたのかがあまり思い出せない。
ただ、家賃が安かったことと、都会に出てきたばかりで、お金を使う遊びをまだほぼ知らなかったので、わずかな収入でも暮らすのには困らなかった。携帯代、電車賃、食費、家賃を支払っても少しは手元に残っていたと思う。お酒は飲んでいたけど、コンビニで缶チューハイを買って友達と歩きながら飲むだけで楽しかった。五日市街道沿いをほろ酔いで歩きながら「都市生活を満喫している!!」と思っていた。

そんな風にお金がないなりに楽しんでもいたけれど、同時にとてつもない焦燥感に駆られていた。
留学から帰ってきて、ただのんべんだらりと東京で暮らしているだけではないか。英語も中途半端にしか話せないし、私には何もない。仕事だって、食えればいいという気持ちだけで選んで、ポリシーもないし、人を喜ばせることもできていない。お客さんと話すだけで精一杯だ。お酒の種類は覚えられたけど、接客はまだまだ得意とは言えない。うまくやり過ごせないし、言いたくないことを聞かれた時に受け流すことができなくて、家に帰って何度も泣いた。何も言い返せない自分と、言い返すことのできない状況がただ悔しかった。やりたいことないの?とか、何になりたいの?と聞かれるたびに、顔が引きつるのを感じた。単なる接客相手には、思いが強すぎて言えなかった。
昔から書くことが好きで、それが何らかの形で仕事になったらいいなという気持ちが年々強くなっていた。文章が書きたい。物を書いて仕事がしたい。だけど、どうすればいいかわからない。とにかく色々書き記してみよう。だって私にはそれ以外何もない。何もできない。書くことしかない。かなり極端な考えではあるがとにかく書くことを仕事にしたい!と強く思い、どうにかできないかと画策していた。まだ、自分が何を書きたくて、どういうことを表現したいかすら、暗い海の底にあった。
必死にそれを探していた。

健康になりたかった

早朝まで働き、夕方まで寝て、また夜を迎え…そんな生活を続けていたら身体もおかしくなる。まだ若さで押し切れてはいたけれど、自律神経は失調しっぱなしだった。
立ちくらみはしょっちゅうだし、重い荷物を持って歩いているとめまいがして、雑踏の中でしばらく座り込んでしまった。もともと運動が大嫌いで、高校の体育の授業を全部サボって留年しかけたくらいだから、基礎体力なんてものは無いに等しかった。走れば転び、投げたボールは緩やかに数メートル先へ落ち、腹筋をすれば次の日は声を出して笑うことさえ辛い。運動部の友人たちの体力や、体を動かすことへのモチベーションが1ミリも理解できなかった。運動?なにそれおいしいの?なにが楽しくてやってるの?体を動かすのが気持ちいいってなに?全然わからない。

学校の「体育」が、基本的に集団競技ばかりだったからというのもかなり大きな要因であったと思う。運動のできる人、すなわちコミュニケーション能力に長けスポーツを楽しむことのできる快活な心の持ち主たちは、体育の時間を何より心待ちにしていた。チーム一丸となって戦う一体感、勝負にかける真剣な思い、本気を出して点を取り合うことの喜びを思う存分味わっているように見えた。

そんな愛と青春の日々も、運動ができないコミュ障からしてみたら地獄でしかない。チームからはみ出し、得点に貢献するような動きは何一つできず、バツの悪い顔をして隅の方に何となく立っているだけ。一応それっぽい動きをして「私は参加していますよ、ヤル気がないわけじゃないんですよ」という雰囲気だけは出してみるものの、後味の悪さは拭えない。他のみんなはこの空間を「楽しんでいる」んだ。私は、楽しくない。誰かの手にボールが渡っていってそれを叩き落として奪ったり、ゴールに入ったの入らないので、何が楽しいのか、わからなかった。

折しも二次成長期である高校時代はタイトルにもあるようにおっぱいが大きく育っていく過程であったので、球技やマラソンなど走ることのある競技の最中は、胸が揺れてかなり痛かった。
そう、走るとおっぱいが痛いのである。
そしてその痛みは、運動中だけに発生するのではない。
おっぱいが揺れて毛細血管が切れるのか、その後おっぱいが熱を持ちめちゃめちゃ痛くなる。おっぱいにアイスノンを当てて冷やしたり冷えピタを貼ったりしてやり過ごしていたが、これは本当に辛かった。
集団競技ばかりの授業で、自分のペースでできることがほぼなかったこと、そして物理的におっぱいが痛くて運動するのが辛かったこと、この二つが重なり私の運動嫌いは加速していった。

とはいえ都会の生活は、体力がないと乗り切れないことばかりだった。今日はお祭りなんですか?と思うほどの新宿の人の波。乗ることを諦め続けて1時間経ったこともある山手線。びっくりするほどどこもかしこも何かの列ができているし、田舎に比べて歩く距離が異常に増えた。ロンドンにいた時よりも歩きまくっていた。ロンドンでは都心部から自分の家の目の前までバスが通っていたので、歩くとしたらせいぜいバス停から自宅スーパー、バス停から学校、職場くらいだったのだ。夜は徒歩だと危ないし、昼間は学校にいるからそもそもそんなに歩かなかった。
しかし東京は本当に人をたくさん歩かせる。自宅から駅までは5分ほどとさほど距離はなかったけれど、駅の階段を上ったり降りたり、乗り換えのために別のホームに行かされたり、また駅を降りてからも歩いて、歩いて、歩いて……少しずつ体力はついてきてはいたと思う。人の波に少しずつ乗れるようになり、適宜休憩して動くことも覚え始めた。
ただ、買い物帰りに重い荷物を運んだり、終電間際で階段を駆け登ったりすると、次の日は筋肉痛だった。そして筋肉痛になるということは、すなわち発熱だった。階段を駆け上るくらいで熱を出してたら、日常生活はままならない。体力のない自分が心底嫌になっていた。
この街で、強く生き抜いていくためには、体を鍛えなければいけない。健康であらねば。体力つけなければ。猫背も治したいし、ちょっと人のたくさんいるところに行ったくらいで熱出すのもカッコ悪いからやめたい。

でも、どうやって?
今まで一切運動をしていなかったからまずどんな風に体を鍛えればいいのかすらわからなかった。筋トレ?ジム?ヨガ?でも、そういうのって続かなさそうだなあ。自分の性格上、人と一緒にやらなければいけないことは向いておらず、一人で、自分のペースで淡々とできて、あまりお金がかからないことじゃないと無理だな、とはなんとなくわかっていた。そしてできたら、楽しいことだったらいいなとも。
ロンドンにいた時にクラブに行ったことがあって、そこで音楽に合わせて体を揺らすのがとても楽しかったので、ダンスだったら続けられるのではないか?と思い、ダンス教室を探すようになった。どんなダンスがいいだろう。というか、世の中にはどんなダンスがあるんだろう?私ができることもあるのかな?何かやりたい。何か、新しいことがしたい。それが結果的に健康に繋がったら、めちゃめちゃもうけものだ。

そんな気持ちで、YouTubeでサルサを見たりして、サルサのリズムとかステップってかっこいいな、サルサやってみたいな、と少し思っていた頃に、私はポールダンスに出会った。

第2話につづく)

・・・・

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