タイ・ミャンマーの山岳地帯に住む首長族。
伝統的な衣装を身にまとい、通常の2倍以上はあろうかという異様な首の長さが特徴。たびたび日本のメディアでも紹介されているのでご存知の方もいると思う。
ドキュメンタリー番組では、経済発展が急速に進むタイにおいて昔ながらの生活様式を保っている……などとノスタルジックな描写で映し出されることが多い。
普段はちょっと卑猥な記事ばかり書いている私だが、それだけのために海外を旅しているわけではない。むしろ日本に住んでいると中々お目に掛かれないような伝統的な暮らしを肌で感じたいと考えている。
私はテレビで首長族の容姿にド肝を抜かれて以来、いつか会ってみたいと夢見ていた。そこで、その暮らしぶりをタイの北部まで見に行ってみることにした。
首長族が住むタイの山岳地帯メーホンソン
タイ北部の中心地チェンマイでの夜遊びに後ろ髪を豪快に引かれつつも、眠たい目をこすって早朝のバスに乗り込んだ。パイという村を経由して、ミャンマーとの国境近く、山岳地帯にあるメーホンソンという街を訪れた。
思った以上に気温が冷たく、熱帯地域とは思えないぐらい寒い。
私はまず適当なゲストハウスを見つけた後、首長族の村に行く方法を探った。いつものごとく下調べはまったくしていない。どうやら車をチャーターしないとならないようで、1人で行くにはコストが掛かり過ぎることが判明した……。
旅行会社の見学ツアーに参加
迷った挙げ句、現地旅行会社で催行されているロングネック・カレンツアーに参加することにした。「バックパッカーならツアーなんかに参加するな!」と一部の読者には怒られてしまいそうだが、お金のほうが大事だったのでご容赦いただきたい。
さて、ツアーの参加者は5人。ベルギー人のカップルに、タイ人のハゲオッサン、それからいかにも金持ちそうなドイツ人のジイさんである。大型の乗り合いタクシー、ソンテウに乗り込むと、ツアーの担当者が首長族について次のように説明してくれた。
首長族とは
ミャンマーからタイ辺りにかけて暮らしているカレン族のこと。山岳地帯には野生のトラが数多く生息しており、襲われて命を落とす人が絶えなかった。そこでカレン族は種族を守っていくため、女性の首に真鍮製コイルを巻いて防備。人間の急所である首をトラに噛み切られないための工夫であった。また実際には首が長くなったのではなく、コイルの重量で肩の骨が下がった状態。
私たちが乗ったソンテウは、ぐんぐん山奥へと入っていく。ビルなどの人工物が何もない原風景に、旅気分も高まってくる。だが、そんな気持ちを萎えさせるベルギー人カップルのイチャイチャぶり。また、それをいやらしい目で見るタイ人のハゲオッサン。ドイツ人の金持ちジイさんは、山奥に来てまでひたすら携帯電話をいじっていた。
せっかくの旅気分が台無しだが、ツアーなので文句はいえない。やっぱり今後はツアーなんかヤメておこう……。
ツアー代金とは別に入村料が必要
少数民族のモン族の村に少し寄った後、首長族ことカレン族の村に到着。まさに山奥にある集落といった印象。心がワクワクする。
村の中に入ろうとすると、ツアー代金とは別に※250バーツ(取材当時のレートで約670円)の入村料が必要だという。屋台での食事が50バーツ程度ということを考えると、かなり高い値段設定に思えた。だがここまで来ておいて入らないわけにはいかない。しぶしぶと支払った。
タレコミ情報
※2016年現在、入村料は500バーツまで値上がりしている(ニホンジンドットコム特派員・krayg_monkey)
しばらく散策してみると、首長族らしき女性を発見。好奇心に胸をおどらせながら近づいてみる。
ついに憧れの首長族と対面。思い描いていたとおりのとんでもない首の長さ(30センチ近くあるかも?)。そして、気になる第一声……。
「サンビャクエン!」
彼女の言葉に唖然とした。なんと日本語を喋っている! 手作りの人形などを売りつけようとしてくる。村中には土産物屋がズラリと並ぶ。しかも、なんだかみんな観光客慣れ(※)している。
「ヤスイー、ミルダケミルダケ!」
歩くたびに首長族の女性から声を掛けられ、次々と土産物を買わされそうになる。なんだこれ……。想像していたのとなんだか違う。テレビで見たとおりの伝統的な衣装の人もいれば、普通に現代的なジャージを着ている首長族もいる。
タレコミ情報
※まだメーホンソンはマシなほう。チェンマイ周辺の首長族はさらにがめつく、まるでパッポンの客引きレベル。若い世代にいたっては、音楽は最新のEDMを聴きヘイヘイ歌い踊る、まさにファッション感覚のロングネッカー!(ニホンジンドットコム特派員・krayg_monkey)
観光地と化した首長族の村
せっかく首長族の村まで来たので記念撮影をするが、そのたびにチップを要求される。これでは完全に観光地ではないか。ツアーに参加したベルギー人のカップルやドイツ人のジイさんなど、他のみんなは楽しんでいる様子。商魂溢れる首長族に驚いている私を見て、隣にいたタイ人のハゲオッサンがこっそり教えてくれた。
「首長族は、本当はミャンマーにしか住んでいなかったんだ。でも、バンコクのように観光収入を得られないタイ北部のマフィアが首長族の容姿に目をつけ、客寄せとして連れてきたんだ。この村も管理されているのだろう。村の中には英語と日本語の学校もある。だから、みんな言葉を話せるのさ。彼女たちは多額のみかじめ料をマフィアに払うため、あそこまで必死になって頑張っているんだ。まぁ、しょうがないよ……」
少数民族を取り巻く複雑な事情
首長族も現金収入を多く稼がなければならない事情を抱えているのだ。私はいっそう複雑な気持ちになった。かつてドキュメンタリー番組でみた姿には、テレビらしい演出が加えられたものだったのだろう。そもそもよく考えれば、旅行会社でツアーが行われている時点で気付くべきだったのかも知れない(苦笑)。
首長族をはじめ、独自の文化をもつ少数民族の多くが、経済社会の歯車のひとつとして組み込まれつつあることは事実。ツアーに参加した私が言うのも矛盾しているかもしれないが、彼らの文化や風習が、観光客に向けた単なるパフォーマンスへと風化してしまわないことを切に願っている。
だが、もはや時代の波にはあらがえないところまできているのかもしれない。
(取材・文/藤山六輝、撮影/krayg_monkey)