ギャンブルの街として知られるマカオ。今では本場ラスベガス以上の興行収入を誇るカジノタウンとして注目を集めている。

 日本の芸能人やタレントがテレビなどでギャンブルのエピソードを語るときにたびたび登場するだけでなく、大王製紙の元会長・井川意高氏が総額106億8000万円もの借金を作ってまでのめり込んでいたという事件も記憶に新しいところだ。

 井川氏は毎週末マカオの有名カジノ「ウィン・マカオ」まで通い、会社のお金を借り入れてまでギャンブルを繰り返したという。次第にその額は膨れ上がり、取り返しのつかないところまでいき身を滅ぼしてしまった。井川氏は懲役4年の実刑判決まで受けている。 

 では、なぜそこまで人々がマカオのとりこになるのか。普段はギャンブルをまったくやらない私だが、実際に調査しにいってみた。そこで見たものとは、予想を遥かに上回る光景だったーー。

ヨーロッパ文化を残す中国の特別行政区

マカオは100年以上にわたるポルトガル統治の時代を経て、約15年前に中国へと返還されたばかりの特別行政区。中国や隣接した香港とは異なる、ヨーロッパ文化を色濃く反映したモダンな街並が広がっている。

 普段は小汚い貧乏パッカーとして海外を旅している私だが、今回ばかりは小綺麗な洋服を用意している。なぜなら、カジノにはドレスコード(服装の規定)が設けられている場合もあるからだ。せっかくマカオへ取材に来たのである。門前払いをくらっては元も子もない。

Casino

マカオのド真ん中にそびえたつグランド・リスボアホテルのカジノ。

高級ホテルとカジノが乱立する街

 香港からフェリーに乗ってマカオに訪れた私。ほかの乗客はいかにも金持ちそうな中国人や欧米人ばかりだ。なんとなく場違いな感じがしなくもなかったが、気を取り直してバスに乗り込む。

 窓から景色を眺めると、ヨーロッパ風の建物に交じって、いたるところにギラギラとしたカジノとド派手な高級ホテルが乱立していることに気付いた。どこかミスマッチで滑稽に思えなくもないが、それもマカオの個性なのだろう。

Local casino

街中にはゲーセン感覚で入れる地元民御用達のカジノも少なくない。

ギャンブルに命運を委ねる

 財布の中身はたったの3000香港ドル(約4万円)。それで十分な調査をしようなど皮算用にもほどがある。物価が高いと言われるマカオでは、生活費を考えるとまったく余裕などない。
 それでも根拠のない自信があった。普段はギャンブルなどやらないが、これまでに勝負事では何度かビギナーズラックを経験している。

 もともとデタラメに賽を投げ続けてきた人生、旅の命運をギャンブルに委ねてみるのもまた一興ではないか。私はゲストハウスで身支度を整えた後、高級ホテル内に併設されているカジノに向かったのだった。

サイコロで大勝ち

 目の前のディーラーが肩を落としながら交代させられた。結果はエニートリプル。ゾロ目だ。初めての挑戦で、しかも1回ポッキリにも関わらず、手元には30万円以上を超えるチップが配られていた。

 私が挑戦したのは大小(タイスウ)と呼ばれるサイコロのゲーム。いわゆる丁半博打の一種だ。ディーラーが3つのサイコロを振り、その合計数を当てるというもの。合計数が10以下を「小」、11以上ならば「大」。掛け金の倍率は2倍。

Sic bo

ゾロ目が出る瞬間を言い当てることが出来れば掛け金は25倍に!

 ただし、ゾロ目「エニートリプル」が出た場合はディーラーの総取りとなる。もしもゾロ目「エニートリプル」を当てることが出来れば、倍率はいっきに25倍まで膨れ上がる。しかし、ゾロ目が出ることなどめったにないと思われる。私が当てることが出来たのはラッキーとしか言いようがない。世の中にはギャンブルの攻略本なども出版されているが、その理論が常に当てはまるとは限らない。そうでなければ誰もが大金持ちになってしまう。

 それでも私がやったことと言えば、1時間以上も勝負を眺め続け、ディーラー(カジノ側)が総取りしたいタイミングを裏読みしたことだ。要するに、「大」と「小」の両方に莫大な掛け金がバラけたときだった。その一瞬ですべてが決まった。

放心状態でサウナに辿り着く

 ギャンブルの勝者が向かう場所と言えば……それはサウナだ。ちなみに、サウナと言っても日本のように汗を流すだけではない。マカオでは売春が合法なのだ。カジノと同様に高級ホテルのなかに併設されている場合が多く、たとえ客が大金を手にしてもすぐに胴元の手元へ戻ってくるようなうまい仕組みが出来ていると思う。

 とはいえ、先ほどの興奮を抑えることが出来ず、とりあえず外に出て気持ちを落ち着かせようと思った。たった1度のギャンブルで私の月収以上のお金が手に入ってしまったことが信じられない。放心状態のまま1時間以上ひたすら歩き続けると、目の前にはサウナをウリにした高級ホテルが佇んでいた。いかにもムフフな雰囲気が漂っている。ただし、とんでもなく高そうではある。

 お金はある。ここまで来たら、とにかく内部がどうなっているのか入ってみるしかない。

Hotel

夜がふけた頃、きらびやかなネオンが灯された高級ホテル。

セレブ気分を味わう

 エレベーターの扉が開くと、ラグジュアリーなソファとシャンデリアが目に飛び込んできた。まるでセレブのライフスタイルを彷彿させる。スーツを着た男性スタッフに促されてソファに腰掛けると、おしぼりと一緒にウェルカムドリンクとしてコーラが差し出された。

 男性スタッフが料金やシステムをていねいに説明する。しかも日本語だ。次に奥の更衣室へと案内されると、洋服を脱ぐこともすべてスタッフが手伝ってくれる。日本の高級風俗店でもここまでのホスピタリティはなかなかない。正直、悪い気分はまったくしなかった。

この世の天国なのか?

 タオル1枚になり大浴場に入ると、この世の天国なのではないかと目を疑った。浴槽が鮮やかなイルミネーションでライトアップされ、アカスリ場やサウナにはビキニ姿の女性が大勢待機している。私がまずはシャワーを浴びようとすると、すぐにちょっかいを出してきた。

 顔立ちから察するに、フィリピンやベトナムなどの東南アジア系だと思われる。彼女たちはカラダを洗うお手伝いや冷たいおしぼりなどを運んでくれるのだが、どうやらそれだけではないようだ。なかには手をつないで奥の部屋へと消えていく男性までいる。

 私は湯船に浸かりながらそんな光景を眺めていた。

Sauna

サウナの内部。ビキニ姿の女性があくせくと動き回っている

人間オークションさながらのショータイム

 突然、場内にディスコ調の音楽が鳴り響くと、照明もド派手に切り替わった。どうしたのかと思うと、なんと世界各国の美女がビキニ姿で登場。アジア系のみならず、ヨーロッパからアフリカまですべての人種を網羅している。その数はザッと100人は超えているであろう。

 彼女たちのレベルはアカスリ場にいた女性たちとは比べものにならないぐらい総じて高く、テレビや雑誌で見るタレントやモデルと同等かそれ以上だった。2階に設置されたショーケースを見上げると、素っ裸の女性がポールダンスを披露していた。

 そして、浴場の中心にかたまって眺めていた男性客の周囲をグルグルと歩き回り、目配せをはじめる。彼女たちの胸元にはナンバープレートが付けられており、男性客が我先にと手を挙げてセリのように指名していく。

 その光景は、どこか人間オークションのように思えた。

人種別の価格表

 男性スタッフがメニュー表を手渡してきた。そこに目をやると、なんと人種別に金額が記載されていた。下記は2016年5月現在のレートで換算したもの。

      

  • 台湾(モデル級) 3万1581円
  • 台湾(普通) 2万7862円
  • 韓国 3万1581円
  • 中国 3万451円
  • ヨーロッパ 2万9450円
  • ベトナム 2万7862円
  • モンゴル 2万8735円

 韓国人と台湾人は、キャバ嬢みたいに派手なメイクであか抜けた印象。対してベトナムやモンゴル人は地味な雰囲気だ。中国人はとにかくスタイルの良さが際立っていた。ヨーロッパ系は、アジア人男性の好みを意識しているのか小柄でスレンダーな女性が揃えられている。

Menu

人種別の価格表。施術内容は自由恋愛アリのマッサージ

海外で春を売る日本人女性

「彼女たちは特別メニューになります。金額は5万2636円です」

 そのなかには、なんと日本人と思われる女性が多数含まれていた。まさか海外のこんな場所で同胞と出会うとは思ってもみなかったので衝撃としか言いようがない。目が合うと、にっこりとほほえみ返してくる。

 日本人女性の金額は、ほかの人種に比べて約2倍近くの設定となっていた。

根強く残る半日感情の裏返し?

 そうこうしていると、初老の中国人男性が日本人女性を指名。実際マカオを訪れるのは中国人の富裕層が多い。中国では周知の通り反日感情が今でも根強く残っていると聞く。もしや戦争の恨みをこの場で晴らしているのだろうか。

 本当のところはわからないが、ともあれ日本人女性の値段が高いということは希少価値と需要があるということだ。経済の仕組みからそれだけは事実なのだと感じた。

Macao

休憩室のソファーにて。男性のタオルの下では怪しく手がうごめいている

日本人女性を指名

 私は1時間に1回程度のショータイムを休憩室で何度かやり過ごした後、迷った挙げ句に日本人女性を指名した。彼女のほうも驚いた様子だった。当初はマカオに来て高額な料金を支払ってまで日本人女性と2人きりになることには興味がもてなかったが、どういった経緯で働いているのか気になったからだ。

 こういった場で理由を聞いたところで真実を語ってくれるとも思わなかったが、少しでも会話をしてみたいと考えたからだ。

「同じ日本人から指名されたのは初めてかもしれない」

 個室で2人きりになると、彼女はうれしそうにつぶやいた。普段はやはり中国人の男性ばかり相手にしているらしい。ベッドに寝転んで頃合いを見計らいながら少しづつ聞いてみる。

「ところでどうしてここに?」
「え、お兄さんのほうはよく遊びにくるの?」

 やはり自分のことは喋りたくないのか、逆に質問で返してくる。それでも諦めずに、一言ずつでも言葉を拾いたい。

「日本の店では働いていたの?」
「本番アリの店とか企画モノのアダルトビデオに少し出てたかな」
「マカオに来たのはなんで?」
「よくわからない。気付いたらここにいた感じ。あはは」

 彼女は声を挙げて笑った。そしてひと呼吸おいてから、さびしそうにうつむいたのだった。そこからはもう野暮な質問をすることは憚られた……。

賽のように流れゆく生き方

 賽は投げられた。人生とは、サイコロの目のようなものだ。まさに運任せ。どのように転がるのかわからない。事ここに至ったうえは、結果がどうなろうとも断行するしかない。

 彼女は、デタラメに投げられた賽のように転がり続けている最中なのだろう。いつかゾロ目を揃え、アガリが出る日を夢見て。
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