世界にはたくさんの山がある。

 1953年にエドモンド・ヒラリーとテンジン・ノルゲイの2人がエベレストの登頂に成功してから63年。それ以降も多くの冒険家たちが未知なる山頂を目指し、未踏峰に足を踏み入れていった。

ニュージーランド紙幣に残るエドモンドヒラリーの肖像
ニュージーランド出身のエドモンド・ヒラリーは2008年、残念ながら亡くなってしまったが、ニュージーランド紙幣にはエドモンドヒラリーの肖像とエベレストが描かれている(しかも存命中から)。未踏峰の制覇はそれくらいの栄誉なのだ

 科学技術は発達し、登山家の装備も60年前とは比べものにならないほど進化した。世界各国の未開の地が人間によって征服される中、現在に至るまで未だに足を踏み入れられていない山もある。いまだに登山者を拒む厳しい未踏峰とは、一体どのようなものなのだろうか?

 今回は世界の未踏峰を紐解いていきます。

1. ガンケルプンスム(Gangkhar Puensum)7,570m

ガンケルプンスム参考画像(ブータン寺院と山)

 世界で最も幸福な国といわれているブータンと、中国チベットの国境に聳える。ブータン最高峰。ひとつの国の最高峰ともあろう山が未だ登頂されていないという事実には驚きを隠せない。

 2016年現在、誰も登頂に成功していない山の中で最高峰。 標高7,570mを誇る屈指の未踏峰だ。

【ガンケルプンスム年表】

  • 1983年 ブータンが登山を解禁。85年と86年に日本や英国など4つの遠征隊が挑戦するものの、すべて失敗
  • 1994年 地域の宗教信仰に反するという理由から、ブータンでは6,000m以上の山への登山が禁止となる
  • 1998年 日本の登山隊に登頂許可が出たが、当時のブータンの政治問題で取り消されてしまう
  • 2003年 ワンチェック国王がこの地を永久未踏峰とすることを宣言

 このような経緯があり、世界中の登山家が挑戦を希望しているがブータン側からの登山許可が今後下りることはない。永遠の未踏峰となる可能性が高い山である。チベットからの許可を取得する手段もあるが、このあたりの国境線は定かではないため、中国も許可を下せずにいる。

 現在、許可が下りることはない。ガンケルプンスムを舞台に設定した映画「キラー・マウンテン」(2011年、米国)が製作されるなど、人々の想像をかき立てる山となっている。

2. 梅里雪山(メイリーシュエシャン)6,740m

世界最強の山、梅里雪山, メイリーシュエシャン

 梅里雪山とは、中国の雲南省デチェン・チベット族自治州に位置する、長さ30㎞にもわたる連山の総称だ。連山のすべてが未踏峰である。最高峰はカワカブと呼ばれる雪山(6,740m)。

 梅里雪山の周囲は金沙江(長江の上流)、メコン川の上流、怒江、3つの大河が、わずか70㎞から100㎞の幅で並行して流れている、世界でも稀に見る地形。急流によって削り取られた連山は険しく、インド洋から吹くモンスーンの影響のため、一年中雪に覆われ人を寄せ付けない。

 チベット仏教徒たちからは聖なる山とされ、巡礼登山が数百年前から行われているが、いずれも山腹に位置する寺院まで。

チベット仏教の寺院
梅里雪山山麓にあるチベット仏教徒の寺院。ここまでなら登山能力が卓越していない仏教徒も訪れることができる

 登頂の試みは、1902年ごろに始まった。アメリカ、中国、日本などからそれぞれ5~6回ほど登山隊を派遣してきた。
 しかし雪が深く気候条件も良くないため登頂は全て失敗。「神々の山」はいまだに未踏峰のままとなっている。

コラム・パラシュートやヘリコプターで未踏峰に降り立つことは可能?

 挑むたびに大量の死者が出る未踏峰。もっと簡単かつ安全にたどり着くことはできないのだろうか。

パラシュートを使う

 上空からパラシュートで降下、山頂に降り立つことはできないのだろうか? 未踏峰は登頂ルートの困難さもさることながら、気候条件が整っていない山々が多い。ニホンジンドットコム編集部で調査した結果、残念ながら、そもそも風に流されるパラシュートで降り立とうと考えた猛者はいないようだ。やめましょう。

ヘリコプターを使う

 パラシュートは無理だが、実はヘリコプターを使った登頂記録はある。しかもエベレスト
 ユーロコプター社のエキュレイユAS350 B3というヘリコプターが2005年にヘリコプターでエベレスト山頂に2分滞在することに成功している。

ユーロコプター エキュレイユAS350 B3ヘリコプター
ユーロコプター エキュレイユAS350 B3

 もちろんヘリコプターとはいえ気象条件には左右されるものの、ヘリコプターを使えば未踏峰への登頂ができなくもなさそうだ。

しかし、世界最高峰エベレストでのヘリコプター離着陸が達成されてしまった以上、ヘリコプター会社が多額の資金を出して未踏峰へ挑戦するかというと可能性は低く、やはり未踏峰登頂は人類の足にかかっていると言えよう。

参考: ヘリコプター、エベレスト山頂に着陸 – 日本航空協会

3. カイラス山(Kailash / Kailas)6,656m

未踏峰カイラス山

 まるで岩のかたまり!といった風情のある未踏峰。チベット高原西部に位置する独立峰。標高は6,656m。チベット仏教の聖山であり、登頂許可が出ない。さらにアクセスも悪い。チベット人の間では「カン・リンポチェ(尊い雪山)」と呼ばれている。

 チベット仏教だけでなく、ヒンズー教、ボン教(チベットの伝統宗教)、ジャイナ教の聖地でもある。これらの宗教的な理由に加え、公的な交通手段もほとんどなく、入境許可証の入手も下りないという点から、バックパッカーには秘境としての色が強くなってきている。未踏峰ではあるが、トレッキングの名所として知られ、ここを訪れる観光客も多い。山を囲む、チイコルと呼ばれる1周52㎞の巡礼路があり、宗教熱心なチベット人の中には、五体投地で、カイラス山を14日かけて一周する人もいる。それを煩悩の数(108回)行うのだ。

4. ザンスカール PT6045(Zanskar)6,045m

 インド最北部、ジャンム・カシミール州ラダックと呼ばれる地域にあり、2山のうちの1つが未踏峰。
 KHUTAPAKANGRI(6,165m)は、2012年、ザ・ノース・フェイス主催の「海外エクスペディション支援プログラム」のサポートを受けた日本山岳会学生部の隊員5人が初登頂。しかし、もう1つのPT6045(6045m)の登頂は、雪面のコンディションが予想以上に悪かったため、撤退という結果に終わった。そのため、後者はいまだに未踏峰だ。

5. マチャプチャレ(Machapuchare)6,993m

マチャプチャレ, Machapuchare

 ネパールとヒマラヤのアンナプルナ山脈に位置する。ネパール第2の都市、ポカラから眺めるマチャプチャレは、名峰マッターホルンに似ていることから、「ネパールのマッターホルン」と呼ばれている。その美しい姿は、何人をも魅了し、世界で最も美しい山とも評されている。
 マチャプチャレは、イギリス人のJ・ロバーツが1957年、山頂直下50mまで登った。そこで止めたのは、マチャプチャレが古くから聖山として崇めらていたため、と言われている。
 この記録を除いてマチャプチャレに人が登った記録は一切ない。ロバーツ以後、ネパール政府は、シヴァ神に関する神聖な山として、一切の登山許可を出していない。

まとめ・熱病に浮かされた登山家たち

 まだまだ未踏峰はたくさんあるが、今回挙げたいくつかの山から見ても、アジアに位置する山が多い事が分かる。いずれも宗教上の理由や自然の脅威によって、登頂は達成されていない。
 登山許可が下りない未踏峰の多いこと多いこと。仮にこれら未踏峰に登山許可が下りたとする。登山家は熱病に浮かされたように山頂を目指すだろう。それで登頂できたとしても、富が得られないのは百も承知。得られるのは登山家の中での名声だけだ。

 だが、なぜ男たちは未踏峰への初登頂を夢見るのか。「そこに山があるから登るのだ」という陳腐な言葉では説明できない。なぜなら、彼らにとって世界初のその達成は、神に選ばれる瞬間に他ならないからだ。彼らはそのときを味わうためなら、どんな危険もいとわない。

未踏峰のこれから

 一方、2012年9月にはこれまで未踏峰の1座であったインドのザンスカールPT6165に日本山岳会の学生部が登頂に成功した。2014年5月には登山家の要望や選択肢の増加のため、ネパール政府が100余の未踏峰へ登山許可が出された。これから登山の歴史に新たなページが刻まれる可能性もある。

 未踏の地を征服する冒険者が現れる日も近いかもしれない。

ヨセミテの山々

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