シンガポールで怪魚ピーコックバス釣り旅。釣れないルアーで怪魚アタック!

 世界各国を旅しながらルアーフィッシングを楽しんでいるジェイリー・キューです。

 近年、怪魚を海外で釣るルアーフィッシングが、一部の愛好家の間で密かに流行り始めている。怪魚とは、少しグロテスクだったり、日本では出会えないほど大型の魚を呼ぶ。

 怪魚を釣るために向かう国は、主にアマゾン川を擁する南米ブラジルベネズエラが主流。だが日本からの移動時間は40時間を超え、航空券も30万円オーバー。さらに現地ガイドへの報酬や宿泊費を考えると安く見積もってもプラス15万円以上。概算で総額45万円もかかる高額な遊びなのだ。

 怪魚ルアーフィッシング愛好家が狙う魚は、魚体の美しさ、ルアーにかかったときの引きの強さ、そしてゲーム性の高さで人気の魚種ピーコックバス

 私もYoutubeで初めてピーコックバスを見たときは衝撃が走った。それはという言葉が一番適切だろう。そして釣り人が次に思うことは、人間の恋愛と同じでその魚に触れてみたい!という想い。

 常人からすればまったく酔狂な感情だが、釣り人とはそういうものなのだ。

ピーコックバスとは

正式名アイスポッドシクリッド。通称ピーコックバス。南米のアマゾン川水系に生息し、全長は最大80cmまで成長する。尾びれの丸い斑点が孔雀の尾の模様をしていることからピーコック(=孔雀)バスと呼ばれる。

 そんなピーコックバスだが、南米に行かずとも日本からほど近いアジアの先進国シンガポールで岸から釣ることが出来るという情報をキャッチした。どうやら食用のためにマレー半島へ輸入され、繁殖したのだという。

 そこで私はシンガポールへ飛ぶことにした。

成田空港にて。バックパックにはこれまで訪れた国のワッペンを付けている

マレー半島・シンガポールで怪魚が釣りたい!

 基本的にどの航空会社でも預け荷物は3辺の合計が158cm以内であれば別料金を取られることはない。この長さで持っていける釣り道具を選択しよう。ルアーなどの針は機内持ち込みが出来ないため、釣竿と一緒に預けるしかない。

空港ではオメガの時計がお出迎え。さすが“世界で最も快適な空港”と評されるだけはある

成田から7時間の空の旅を終え、シンガポール・チャギン国際空港に到着。

大型荷物扱いとなる釣り竿をピックアップ

 ピーコックバスとの対面に期待を膨らませつつ、シンガポール市内へとタクシーを走らせた。

 シンガポールは東京23区くらいの国土しかない小さな国。その気になれば1日で回りきることのできる広さだ。シンガポールには8~10箇所くらいの貯水池や貯水ダムがあり、各貯水池にはフィッシングエリアという釣りのできる場所が定められている。

ルアーは合法、エサ釣りは非合法

 シンガポールではエサ釣りが禁止されている。これはシンガポールが深刻な水不足に陥っていたことに起因する。かつては隣国マレーシアから輸入に頼っていたが、近年では国内の技術力が向上。雨水をろ過することで水をまかなえるようになった。とはいえ、海を完全にせき止め、汽水域(※海水と淡水が混在した状態)を淡水化、その水を貯水池に溜めているため、水が汚れてしまうエサ釣りは禁止となっている。ルアーの場合はエサではないので問題ない。

 ではルアーは水が汚れないのか? というとそうでもない。根掛かりで湖底に針が引っかかり、そのままルアーが戻ってこない事もしばしばある。そのときは心の中で謝ろう……。

各貯水池にはフィッシングエリアを示す看板が備え付けられているので釣りを始める前に確認しておこう!

 シンガポールは罰金天国。道ばたでタバコを吸えば約8万円、ゴミのポイ捨ても約8万円と厳密に罰金額が定められている。フィッシングエリア以外で釣りをしても例外ではなく、シンガポールのお家芸罰金が課せられる! その額、日本円にして約5000円……。痛い出費は避けたいところ。

あえて釣れないルアーで挑戦!

 最近のマイブームは、あえて魚の形状をしていないルアーで釣ること。魚の形状をしたルアーが釣れるのは当たり前。それに少し飽きてしまった部分もあるからだ。

 魚の形状をしていればそれは疑似エサであり、いわゆるルアー。魚とは異なる形状で、魚ではないルアーで釣る醍醐味とは「完全に騙してやった!」という“してやったり”の感覚。

 これはハンドメイドルアービルダーの安藤吉彦氏が提案する『シリースタイル(バカな愚かなという意)』という新しいフィッシングスタイルである。

 そこで今回使うのは、シリースタイルにインスパイアされ筆者が製作したMOTHER FxxKER LURESというハンドメイドルアー。

お化けのQ太郎のようなルアー。本当に釣れるのか……?

 Q太郎は変身が苦手。靴になるのが限界。そんなQ太郎が、もしも魚に変身して手元に帰ってきたらドラマチックではないか。

 日本ではブラックバスをターゲットにルアーフィッシングをしているのだが、ぶっちゃけコイツを使って釣れたことはまだない。やはり釣れないルアー。そう簡単に魚は食いついてはくれない。

 魚がルアーの後ろをチェイス(※1)してきたことはあるのだがバイト(※2)には至らず……。

釣り用語解説

 読者の皆様のなかには、使い続けていればそのうち釣れるのではないかと思われる方もいるかも知れない。しかしルアーフィッシングでは同じルアーを長時間ずっと使い続けていると、魚もそのルアーがエサではないと見切ってしまう。意外にも学習能力があるので驚きだ!

 海外での釣りは初めてではないが、どこでルアーを投げるときでも最初の一投目はドキドキする。とんでもない大物が釣れるのではないかと妙な期待を抱いてしまうのだ。

 がんばれ、Q太郎!

待望のルアーフィッシング開始!

 ——最初のドキドキはどこへいってしまったのだろう。開始から数時間、数え切れないほどルアーを投げ続けているのだが。一向にQ太郎が魚に変身して帰ってくる気配はない。そんなとき、救世主が現れた。

「そのルアーでピーコックバスを釣ろうとしてるのかい?」

 地元のルアーマンが声を掛けてきたのだ。彼の名前はイーマ。

「イェス!このルアーでピーコックバスが釣れたらクールだろ?だから投げ続けているのさ!」

「確かにそのルアーで釣れたらクールだね!でもシンガポールではおそらく無理だと思うよ……なぜならルアーのサイズが大きすぎる」

「大きすぎる!? もっと小さくないと食わないのか?」

「そうさ、シンガポールでピーコックバスを釣りたいのなら5cm前後くらいで動きの早いルアーを使った方がいい。はるばる日本から来ているのならぜひシンガポールの怪魚ピーコックバスのパワーを体感して欲しい。俺の作ったルアーをあげるよ!これは釣れるぞ!」

現地人からもらったフェザージグという種類のルアー。大きさが全然違う

「シンガポールではどのくらいのサイズのピーコックバスが釣れるんだ?」

「25cmくらいの小さいサイズはよく釣れるね。アベレージは30cmくらいかな。70cmを超える大型、まさに怪魚も時々上がるからピーコックバスフィッシングはクセになるね。時間的にもそろそろ魚の食い気が高まるからきっと釣れるよ。そのルアーがあればアイスクリームになる事はないよ!」

「アイスクリーム?」

一匹も魚が釣れない事を指す言葉だよ。なぜアイスクリームなのかはわからないけどね!」

 国が変われば言葉も変わる。日本では釣りに行ったにも関わらず、魚が一匹も釣れなかったことを「ボウズ」と呼ぶのが一般的。そのほか、「デコる」や「ホゲる」など地域によっても異なる。

 一匹も釣れない悲しみをアイスクリームでも食べて誤魔化そうなんて事なのか……? 真相はわからずじまい。

 そんなワケで、Q太郎ルアーを変身させることはあきらめ、ピーコックバスを釣ることに専念する。お疲れ、Q太郎!

現地で手に入れたルアーで再開

 いざ、イーマからもらったオリジナルルアーをキャスト(※3)。このルアーは湖底に沈めて底をズル引いて(※4)使ったり、中層を少し早めに引いて使うものだ。

釣り用語解説

 湖底をゆっくり引いてみると、ずっしりとした重みを感じる。だが引きを感じないので魚ではないだろう。釣り糸を切らないようにゆっくりと引き上げると案の定、ビニール袋。

 しばらくビニール袋が釣れまくる。ゴミのポイ捨てにうるさいシンガポールなのにビニールが釣れまくる!

 湖底のビニール袋をひと通り釣りまくり、シンガポールの湖底を清掃完了したのかビニール袋は釣れなくなった。ようやく普通の釣りが楽しめそう。

 出来るだけ遠方にルアーをキャスト。湖底にルアーが落ちた感覚を確認してから、ゆっくりと底をズル引く。そしてクライマックスは突然訪れた。

ガンッ!

「!?」

ビニール袋ではない! ルアーをひったぐるような感覚!

これは……魚だ!

ロッド(竿)が弧を描き、釣り糸が水面に吸い込まれる

 ギーーーーとリールが喚き声をあげた。ブラックバスに比べると引く力が強い。これはきっと大物!?

 無理に巻くと釣り糸が切れるので、魚が逃げ泳ぐ方向をコントロールしながら岸際に寄せる。ルアーフィッシングはこの瞬間が最高にエキサイティングなのだ。雄の狩猟本能なのだろう。

 魚も疲れてきたところで岸に一気に寄せようと思うものの、魚も最後の踏ん張りを見せる。負けじと穂先でコントロール。

 格闘すること数分。ついに魚を水面から引きずり出した。

37cmのピーコックバス。大型の怪魚ではないがアベレージサイズ超え

 ピーコックバス。日本では味わえない引きの強さだった。シンガポールまで来た甲斐があった……。

 余韻に浸っていると、すぐに雲行きが怪しくなってきた。アジア特有のスコールがきそう。いったん雨宿りができる場所を探す。

激しいスコール。こうなってしまうとどうしようもない

ローカルフードで小休止

 予想通りにスコールが訪れた。経験上、スコールは長くても1時間で止む。そこで小休止をいれるため、ホーカー(フードコート)に移動して遅めの昼食をとることにした。

 物価の高いイメージのあるシンガポールだが、ホーカーは安くローカルフードが食べられるので利用しない手はない。

 旅をする楽しみは食事にもあると思う。

 そんなワケで突然ですが、私が食べたローカルフードをご紹介。現地ルアーマンのイーマがオススメするのはチキンライスだ。

シンガポール名物チキンライス。約220円

さらにデザートを食す。特にかき氷はバリエーション豊富。

「二人世界」という商品名に惹かれてオーダー。こちらも約220円

 赤道に近いシンガポールはかなり暑いうえに湿度も高い。この環境で食べるかき氷は本当にウマく感じる。腹ごしらえをした後、再びフィッシングを再開。

ポコポコ釣れ始めた

 現地ルアーマンのアドバイス通り、日本から持ってきた小さめのルアーを使ってみるとポコポコ釣れ始めた。

通称レッドデビル。日本でいうブルーギル?

小さいサイズのピーコックバスが結構釣れる。

15cmちょっとのサイズ。これだと引きも物足りない

そろそろ帰ろうかな……って頃に、さらにもう一匹。

少しサイズアップして35cmのピーコックバス

魚の食い気が下がり、あたりが暗くなってきたので終了。

次回こそはオバQで釣りたい!

 結局、今回の旅では“釣れないルアー”のオバQで釣ることは叶わなかった。だが普通のルアーでは結構な数のピーコックバスが釣れるのでシンガポールでは十分に楽しめた。

 次回こそは大型の怪魚を狙いたい。SNSを駆使しながら旬な現地情報を集め、ヒットルアーの分析をしてから釣り場所のポイント選びをしていこうと思う。

 そして出来れば釣れないルアーのオバQを魚に変身させたいと願うばかりだ!

今回の道具を公開!

シンガポールでのルアーフィッシングに興味がある人は、今回の道具を明記しておくので、ぜひ参考にしてほしい。使用しているロッドはハイエンドタックルのため高額だが、入門ロッドでも釣りは成立するので釣り具屋で相談してみよう。

ベイトタックル

スピニングタックル

オールドタックル

(取材・文/ジェイリー・キュー)