物語へ迷い込んだ末、インスピレーションが湧き出てくるオフィス、Fueled collective——ニューヨークの素敵なコワーキングスペース vol.1

京都で企画やマーケティングのフリーランスをしながら、京都の町家を起業支援拠点としたコワーキングスペース、町家スタジオの代理館長をしています小嶌久美子です。

フリーランスとなり自分自身でも新しい働き方を試す一方、コワーキングスペースという場所に可能性を感じています。ただのスペース貸し、電源貸し、ネット環境貸しに留まらない、元気なコワーキングスペースを運営したい。
——ヒントを得るため私が目を付けたのは、コワーキングスペースバブル巻き起こるニューヨークでした。

ざっと調べただけでも、ニューヨークには星の数ほどのコワーキングスペースがあります。オープン予定の所が多く、これからまだまだ数が増えそう。東京も増えてはいますが、ニューヨークの増え方はなかば異常と言えます。こんなにコワーキングスペースのニーズが見込めるのはなぜなのでしょうか。

そこで現地へ取材に行ってきました。場所によってはアポをとってじっくりとお話を聴けたところ、あまりお話できなかったため自分で推測するしかなかったところなどいろいろな切り口ありますが、私の写真や視点を交えて、連載形式でニューヨークのコワーキングスペースをご紹介します。

第1回目は、ショッピングも飲食も充実しニューヨークの若者が集まっている最近注目の区画、マンハッタンのSOHOと呼ばれるエリア。Fueled collectiveは、SOHOブロードウェイ沿いのビルの最上階に入居しています。コワーキングスペースの入り口には特に大きな看板などありません。
ビル受付の警備員さんにFueled Collectiveへ訪問することを告げ、何者か示すためにパスポートを提示してから、ステッカーの許可証をいただいてエレベーターを上がります。エレベーターを出たところでこの紋章のようなマークが来訪者を迎えてくれます。

受付はこの奥にあります

気さくなお姉さんがパソコンでデスクワークの合間に、丁寧に対応してくれます。少しオフィス内に足を踏み入れただけでオフィスをざざっと見渡せる間取りです。受付のすぐ後ろにデスクが並んでいますし、ガラス戸の会議室もミーティングをしている様子がうかがえます。

受付の横にはフリースペース。もっと奥にもスペースが続いている様子がうかがえます。

また、右に回り込むと、絨毯が敷かれてソファが並べてあるスペースも違和感なくオフィスに溶け込んでいます。壁にいろんな木箱が貼り付けてあって、瓶が並べられています。うるさくないくらいにカラフルです。

もうひとつのソファスペースも、オフィスデスクの横で空間に馴染んでいます。ですがここはあくまでもオフィス。ソファに座っていた方も、くつろぎながら、ちゃんと仕事をしていました。

デスクに座っていては行き詰まってしまうようなときに、ソファに移動してお仕事をするのでしょうか。いろんな座り心地の椅子が並べられていますが、雰囲気に統一感があるのはFueled collectiveさすがのセンスです。何気なく置いてあるトランクや箱、古書が空間の物語性を増幅させます。

ひとつひとつのディテールに目を向ければ向けるほど愛おしくなるのがこのオフィスの特徴。
受付右横のソファスペースの壁の木箱の中をよく見てみると、カラフルな瓶には色とりどりのキャンディが入っています。キャンディは入居者向けに全て食べ放題。

テーブルへ無造作に置いてあるミニバケツの中にも、自由に食べてよいスナックやバナナやりんごが入っています。

オフィスの一角にこっそりと置いてある『ICE CREAM』 と書かれたケース。アイス用冷凍庫でした。このアイスも好きに食べていいそうです。

用意してあるのは美味しそうなお洒落棒アイス。棒なのは、作業しながらでもさっと片手で食べられるように、という配慮からでしょうか。

毎日午後四時に稼働するポップコーンマシンもあります。残念ながら、訪問したのが午前中だったので稼働していなかったのですが、毎日決まった時間に稼働するポップコーンマシンがあるだなんて、なんとなくわさわさと集まるオフィスワーカーの姿を想像するとにやけちゃいます。

キャンディ、スナック、アイス、ポップコーン。食べ物だけでなく、飲み物も充実しています。美容に良いレモンウォーターをオフィスの真ん中や壁沿いに数箇所置いています。

レモンウォーターの横にはいろんな種類のティーバッグが詰まった木箱。


ティーバッグが用意してあるスペースの右の方には、コーヒーポッドも用意されています。この一角には水回りがないのですが、オフィススペースを出たところにキッチンがあります。オフィス内は水回りがないことを意識させないほどに飲み物類が充実していて、キッチンではコップを洗ったりするくらいであまり不便がなさそう。

飲食類だけじゃありません。綿棒や糸ようじ、サプリメントまでも、オフィスの壁沿いに瓶詰にして並べてしてあります。


鏡の前に鎮座していますが、すぐ横で仕事をしているオフィス空間でも違和感のない、デザイン性の高さに唸ります。

他に、急に必要になる切手や電池などを買える、オリジナルの自動販売機もさりげなく備え付けられています。タッチパネル式で、3ドルの切手や4.5ドルの電池が買えるようになっています。オフィスの外にお使いに行かないといけない煩わしさもこれで軽減されますね。

これ貰えるよ、買えるよ、だけでなく、設備面でのキッチュさに目を向けましょう。
取り上げたいのは、よくコワーキングオフィスにある電話ボックス。他の人の仕事中の邪魔にならないように、電話で話す内容が漏れないように、との意図で入る電話ボックスですが、昔の公衆電話ボックス型にデザインされているのがFueled Collectiveの特徴。

電話用に一人くらいしか入れない大きさで窮屈に感じがちのスペースですが、公衆電話ボックス型の個室であれば、入るのも多少わくわくしそうです。昔の映画のスーパーマンも変身するときは電話ボックスに入っていましたものね。

特筆すべきは、会議室。様々なコンセプトの部屋があって、遊び心が感じられます。
受付のお姉さんに真っ先に紹介されたのは、普通に置いてあるクローゼットに見えるこちら。右扉を開けたら、普通の会議室です。ちょっと人目を忍んだミーティングや作業をするにはうってつけの場所ですね。

知らないひとの肖像画が沢山飾ってある遊び心のある会議室もあります。ここは人目を気にしてミーティングをしたいときに利用するのでしょうか。

ミーティングルームに置いてある備品入れの木箱も、一見するとコンパスとか葉巻が入っているように見えて全力でお洒落空間を演出しています。

葉巻が入っていそうな木箱を開けると……
ミーティンググッズが!

ミーティングルームや電話ボックスの他に、オフィススペースの外には隠れて電話や仕事ができるスペースがあります。ちょっとした隠れ家のよう。

印象的なのは、このオフィスに入る前のエレベーターを降りたところにある入居者の表示。

オフィスの入り口。黒板にチョークで入居企業のロゴが描いてあります

入居している企業が訪問者にとっても入居企業同士にとっても把握しやすいですし、便宜上更新もしやすい。このアイディアはさすがです。

オフィス内にある黒板には、こちらのオフィス、Fueled Collectiveを運営しているFueledの取引実績が描いてあります。

Fueled collective

オフィス内の黒板

実は、Fueled Collectiveはモバイルアプリを制作している会社の『Fueled』が自社オフィス兼コワーキングとして運営している場所なのです。入居者120名中、30名がFueledの社員。デザイン性と機能性を高め、最高に居心地の良い自社オフィスにした結果がFueled Collectiveにつながったそうです。

入居している企業は様々ですが、全般的にデスクの島1〜2つに収まる、6〜12人規模の会社が多いようです。

コワーキングスペースを利用する方はさまざまな意図を持って入居してきます。多くの方がネットワーキングを目的にしていたりしますが、Fueled Collectiveでのコミュニケーションは会社・チーム内で収まることが多く、ネットワーキング目的でFueled Collectiveを利用している会社は少ない様子でした。

オフィス運営側も、自社オフィス兼コワーキングオフィスで、ネットワーキングイベントを特に意識して行ってはおらず、どちらかというと入居企業が気持ちよく仕事できる環境のサポートに専念していました。ネットワーキングイベントを積極的に実施しなくとも、遊び心のある空間だと自然と会話も生まれそうですしね。

立地の便利さ、デザイン性と機能性を兼ね備えたオフィスを自分で作り維持するのは骨が折れるもの。こういうオフィスに入居したほうが社員のモチベーションアップにもつながるし便利、という感覚で入居しているように思います。

見れば見るほど、遊び心と工夫が見える空間にとりこになりそう。

ひとりあたり月450ドルの3ヶ月お試しプランではじめられます。通常賃料は月650ドル。

Fueled Collective

GALLERY of Fueled collective

受付には地球儀が置かれています
古い地球儀が空間にマッチしています
会議室は中の様子が見えるように
飲み物が置かれているスペース
ラウンジにはバーも併設
オフィス天井の配管は朱で統一されています
至る所にソファ
ラウンジで仕事する人も多い
吹き抜け空間からは下の階が見えます。ちなみに下の階に入居している企業はfoursquare
額縁だけの会議室
こちらの会議室にはおしゃれなトランクが並べられています